ブルッフ:スコットランド幻想曲 変ホ長調 Op.46
Max Bruch: Fantasie für die Violine mit Orchester und Harfe unter freier Benutzung schottischer Volksmelodien, Op. 46(1879–80/初演1881, リヴァプール)
番号のない序奏のあと、4つの楽章がそれぞれスコットランド民謡を核にし、ハープが独奏ヴァイオリンの相方を務める。小節番号は Simrock 初版総譜で実測し、作曲者のピアノ編曲譜と突き合わせた。
出典・底本
主な分析ソース:本ガイドが確認できた範囲では、全楽章を小節単位で通覧した公刊分析は見つからなかった。クリストファー・ファイフィールド(Christopher Fifield)の伝記 Max Bruch: His Life and Works(1988)と、マイケル・スタインバーグ(Michael Steinberg)の The Concerto: A Listener’s Guide(2000)は未参照。そのため区分・小節・調は本ガイドが楽譜から実測した。作品の来歴と民謡の同定は、タリー・ポッター(Tully Potter)による Hyperion CDA68050 の解説(レーベルのブックレット・2014年)を主に、アレクサンダー・レーディング(Alexander Rehding、ハーバード大学の音楽学者)によるボストン交響楽団のプログラムノート(楽団サイトの解説文)と英語版 Wikipedia の項目(百科事典)で突き合わせた。位置の準拠:本ガイドが総譜で実測した小節番号。底本は総譜 Simrock 初版(ベルリン, 1880, 図版番号 8176, IMSLP #503883)。総譜は小節番号を刷らず、練習記号(アルファベット)を楽章ごとに振り直して刷る(ただし序奏と第1楽章は通しで A–I。J は使われていない)。位置欄に練習記号を併記した。小節は総譜の全頁を数え、別に独奏ヴァイオリンとピアノによる作曲者の編曲譜(Simrock 1880, 図版番号 8178, IMSLP #237319)を数えて突き合わせた。序奏と4楽章とも、2資料で総小節数と全練習記号の位置が一致した(46/85/213/98/195、計637)。編曲譜との違いは、序奏 C の4小節の調号(総譜は調号なし、編曲譜は♯4つ)、第1楽章のテンポ表示(総譜 ♪=84、編曲譜 ♪=88)、編曲譜の終楽章で練習記号 H が m.118 と m.122 に重複して刷られていること。弱起は数えない(数えるのは完全小節のみ)。調号は総譜の実音の段(フルート・オーボエ・ファゴット・トロンボーン・弦・ハープ)で読んだ。音名は総譜の独奏パートの拡大画像からの読み取りで、確度の低いものは本文にそう書いた。
参照録音(スパインの幅の基準):ジャック・リーベック独奏/マーティン・ブラビンズ指揮BBCスコティッシュ交響楽団(Hyperion CDA68050、2013年8月グラスゴー、シティ・ホールズ録音)。序奏と各楽章の演奏時間(3:41/5:18/6:40/6:42/8:39)はブックレットの公表値で、トラックの割りは総譜の見出し(Einleitung/I./II./III./IV.)と一致する。区分ごとの時間目安(≈mm:ss)は付けていない。録音未計測のため。
本文で言及する論:ポッター(成立・初演・民謡の同定・「老いた吟遊詩人」の標題)/レーディング(民謡集・スコットランド訪問)/Wikipedia(民謡の同定)/ボロウスキー(民謡の原曲資料と譜例比較、終楽章の副主題)。形式の区分名(前奏・主題・中間部など)は本ガイドの読みで、典拠が名指ししているのは各楽章の民謡と、第2楽章の「スケルツォ風」という性格づけまでである。
序奏と全4楽章の俯瞰
| 楽章 | 形式 | 主調 | 拍子 | 形式上の変型 | 聴きどころ |
|---|---|---|---|---|---|
| 序奏 Einleitung. Grave | コラールと叙唱の交替 | 変ホ短調 | 4/4 | 番号を持たない序奏。ハープつきの金管コラールで始まり、独奏は「叙唱のように(Quasi Recit.)」入る。フェルマータで止まり、attacca で第1楽章へ | 重い金管の和音にハープが重なり、そこへヴァイオリンが語るように割り込む。ポッターによれば「廃墟の城を見つめ、昔日の栄光を嘆く老いた吟遊詩人」を思わせるとされる。 |
| I. Adagio cantabile | 民謡による歌の楽章(前奏–主題–中間部–主題の回帰) | 変ホ長調 | 3/4 | 独奏は冒頭の1音を第1ヴァイオリンと重ねたあと18小節休み、m.20 の弱起から民謡を重音で弾く。伴奏の中心はハープの分散和音 | 弱音器つきの弦がゆっくり和音を広げたあと、独奏が「Through the Wood, Laddie」(資料によっては「Auld Rob Morris」)を歌う。ハープとヴァイオリンの二重唱のような楽章。 |
| II. Allegro | 民謡による舞曲(スケルツォ風) | ト長調 | 3/2(末尾 3/4) | 調号♭3の全奏の導入からト長調の「Tanz」へ。終わりに Adagio が割り込み、変イ長調に転じて attacca で第3楽章へ | ホルンと低弦の持続音がバグパイプの響きを作り、その上で独奏が「The Dusty Miller」を重音で踊る。 |
| III. Andante sostenuto | 民謡による歌の楽章(三部形式的。本ガイドの読み) | 変イ長調 | 4/4 | 中間でロ長調(ハープは変ハ長調で記譜)へ離れ、Più animato で高まる | いちばん素朴な歌。独奏が第1小節から「I’m a’ doun for lack o’ Johnnie」を歌い出し、管弦楽だけの短い間奏を挟みながら楽章の大半を歌い続ける。中ほどでハープが加わって熱を帯びる。 |
| IV. Finale. Allegro guerriero | 民謡による行進曲風の楽章(主題の転調回帰と挿入部。本ガイドの読み) | 変ホ長調 | 4/4(末尾 3/4) | 独奏とハープだけで始まる。全奏の主題が変イ長調・ホ長調・ハ長調の和音を経て戻る一方、抒情的な副主題もハ長調・変イ長調・ホ長調・変ホ長調を巡る(ボロウスキー)。終わり近くの Adagio で第1楽章の民謡の頭が戻る | 「Hey tuttie tatie」(「Scots wha hae」の旋律)を独奏が4音の重音で打ち鳴らす。途中のハ長調の歌で一息つき、最後は全奏で押し切る。 |
楽章をまたぐ仕掛け:第1楽章の民謡が、第2楽章と終楽章の終わり近くに戻る。Wikipedia は「Through the Wood, Laddie」が第2・第4楽章の終わりにも現れるとし、ポッターは第2楽章の末尾の短い Adagio を「Adagio cantabile からの引用」と書き、ボロウスキーもこの経過句を「Thro’ the Wood Laddie に基づく」とする。本ガイドは、終楽章の Adagio(m.189)で独奏が弾く E♭–B♭|C–E♭–F の形が第1楽章の主題(m.20 の弱起から)の頭と一致することを総譜で確かめた。第2楽章の Adagio(m.197 のヴィオラ、m.202 の独奏)は、旋律を照合しきれていない。
成立と初演:1879–80年の冬にベルリンで作曲され、パブロ・デ・サラサーテに献呈された(初版総譜の扉にも献辞がある)。正式の題は「スコットランド民謡を自由に用いた、管弦楽とハープを伴うヴァイオリンのための幻想曲」で、総譜の扉は内容を「Einleitung–Adagio–Scherzo–Andante–Finale」と並べる。作曲した時点のブルッフはスコットランドを訪れたことがなく(レーディング。ポッターは「一度も訪れなかった」と無限定に書くが、レーディングは初演後まもなく、イングランド北部に住んでいた時期に訪れたとする)、旋律はジェームズ・ジョンソン編の民謡集 The Scots Musical Museum(1787–1803)から採ったとされる(ポッター、レーディング。Wikipedia は1868年にミュンヘンの図書館でスコットランド音楽の集成に触れたとする。本ガイドは民謡集そのものを参照していない)。ブルッフは1880年7月30日にジムロックへ、形式がまったく自由で民謡を用いているから「本来の意味で協奏曲とは呼べない(ヨアヒムも同意見)」と書き送った(ポッターによる英訳の引用)。初演は1881年2月22日、リヴァプール・フィルハーモニー協会の演奏会で、独奏は献呈先のサラサーテではなくヨーゼフ・ヨアヒム、指揮は作曲者(ポッター、レーディング、Wikipedia が一致)。ヨアヒムは独奏パートの校閲にも手を貸したが、作曲者は初演の出来に満足しなかった(ポッター)。1883年3月15日のロンドン(セント・ジェームズ・ホール)ではサラサーテが独奏し、プログラムには「ヴァイオリン協奏曲(スコットランド風)」と刷られた(ポッター、Wikipedia)。編成は2管(Fl・Ob・Cl・Fg 各2)、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、大太鼓とシンバル(総譜の表記は Gran Tamburo e Piatti)、ハープ、弦(総譜の段で確認)。
成立と初演:1879–80年の冬にベルリンで作曲され、パブロ・デ・サラサーテに献呈された(初版総譜の扉にも献辞がある)。正式の題は「スコットランド民謡を自由に用いた、管弦楽とハープを伴うヴァイオリンのための幻想曲」で、総譜の扉は内容を「Einleitung–Adagio–Scherzo–Andante–Finale」と並べる。作曲した時点のブルッフはスコットランドを訪れたことがなく(レーディング。ポッターは「一度も訪れなかった」と無限定に書くが、レーディングは初演後まもなく、イングランド北部に住んでいた時期に訪れたとする)、旋律はジェームズ・ジョンソン編の民謡集 The Scots Musical Museum(1787–1803)から採ったとされる(ポッター、レーディング。Wikipedia は1868年にミュンヘンの図書館でスコットランド音楽の集成に触れたとする。本ガイドは民謡集そのものを参照していない)。ブルッフは1880年7月30日にジムロックへ、形式がまったく自由で民謡を用いているから「本来の意味で協奏曲とは呼べない(ヨアヒムも同意見)」と書き送った(ポッターによる英訳の引用)。初演は1881年2月22日、リヴァプール・フィルハーモニー協会の演奏会で、独奏は献呈先のサラサーテではなくヨーゼフ・ヨアヒム、指揮は作曲者(ポッター、レーディング、Wikipedia が一致)。ヨアヒムは独奏パートの校閲にも手を貸したが、作曲者は初演の出来に満足しなかった(ポッター)。1883年3月15日のロンドン(セント・ジェームズ・ホール)ではサラサーテが独奏し、プログラムには「ヴァイオリン協奏曲(スコットランド風)」と刷られた(ポッター、Wikipedia)。編成は2管(Fl・Ob・Cl・Fg 各2)、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、大太鼓とシンバル(総譜の表記は Gran Tamburo e Piatti)、ハープ、弦(総譜の段で確認)。
序奏 Einleitung. Grave
コラールと叙唱の交替
コラール
1–7
1–7
叙唱
8–14
8–14
交替
15–21
15–21
独奏の歌
22–32
22–32
調号なし
33–36
33–36
収束
37–46
37–46
※ 幅は小節数に比例。区分名は本ガイドの読み。総譜はこの部分に楽章番号を付けず、次の Adagio cantabile に「I.」を刷る。本ガイドが序奏を独立したパネルにしたのはそのためで、参照録音のトラックも同じ位置で分かれている。
主要主題
金管のコラール m.1
ファゴット・ホルン・トロンボーン・チューバが付点のリズムで和音を1つずつ置いていく。ティンパニと大太鼓が pp で下支えし、ハープが mf の和音で金管と一緒に鳴る。ピアノ編曲譜には「Blech(金管)」と書かれ、m.7 に morendo。
独奏の叙唱 m.8
練習記号 A で独奏が Solo. Quasi Recit.、pp で入る。高い音を長く伸ばしてから、3連符を含む短い音型で下りてくる。弦は全音符の和音を保つだけで、拍を刻まない。
| 区分 | 位置 | 調 | 主題 | 内容・聴取ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 金管のコラール | mm.1–7Grave | es moll | コラール | 弦と独奏は休み、管と打楽器とハープだけで7小節。m.7 で pp〜ppp に沈む。 → 聴取:弦がいない。金管の和音にハープの撥弦が重なる、独特の音色で幕が開く。 |
| 独奏の叙唱 | mm.8–14A=8 | es moll | 叙唱 | 弦が p の和音で入り、ハープは m.8 に colla parte(独奏に合わせて)と記されたのち休む。独奏は espress. で語り、m.13 に morendo、m.14 は rit. とフェルマータの短い小節。 → 聴取:拍のない語り。弦の和音がほとんど動かないので、独奏の言葉の抑揚だけが聞こえる。 |
| コラールと独奏の交替 | mm.15–21B=15 | es moll | コラール/叙唱 | 管のコラールが戻り、独奏と1小節ずつ受け渡す(独奏は mm.16・18・20–21)。m.18 に f appass.、m.21 にトリル。 → 聴取:問いと答え。重い和音と独奏の高い声が交互に来る。 |
| 独奏の歌 | mm.22–32 | es moll | – | m.22 colla parte、m.23 a tempo で独奏が sempre f ed espressivo。途切れずに歌い続け、終わりで p に落ちる。ハープは休み。 → 聴取:叙唱が旋律に変わる。ここで初めて独奏が長い息で歌う。 |
| 調号の外れる4小節 | mm.33–36C=33 | 調号なし | – | 複縦線で調号を外し(総譜)、弦が pp のトレモロ、トロンボーンが pp で嬰記号の和音を置く。独奏は m.34 から cresc. で昇り、m.35 に f appassionato。 → 聴取:弦のさざめき。和音の色がふっと明るい側へ変わる。 |
| 収束と attacca | mm.37–46 | es moll | – | m.37 で♭6つに戻り、独奏が f。m.38 に sfz の長い上行音階(17音)、m.39 に f ed appassionato。最後はトリルから morendo pp に消え、m.46 は全パートのフェルマータ。複縦線の先で♭3つ・3/4 に変わり、ピアノ編曲譜はここに attacca と刷る。 → 聴取:止まって、そのまま次へ。フェルマータの静けさから、切れ目なく Adagio の和音が始まる。 |
形式上の特異点
- 番号のない序奏。総譜は「Einleitung」とだけ題し、「I.」は次の Adagio cantabile に刷る。IMSLP は「I. Introduction: Grave. Adagio cantabile」と序奏を第1楽章に含めて数えるが、本ガイドは総譜の番号づけに従い、序奏を独立させた。
- ハープが最初の音から鳴る。正式の題が「管弦楽とハープを伴う」とハープを名指しするとおり、ハープは独奏ヴァイオリンより先に、金管のコラールと同じ和音を弾いて曲を始める。
- 総譜と編曲譜で調号が違う。C(m.33)の4小節を、総譜は調号なしで書き、ピアノ編曲譜は♯4つで書く。響きは同じで、記譜の選び方の違いである。
- 標題。ポッターは、この Grave が「廃墟の城を見つめ、昔日の栄光を嘆く老いた吟遊詩人」を思わせる「とされる(it is supposed to)」と書くが、その言葉の出所は示していない。ボロウスキー(2018)は、ブルッフ自身がこの情景を思い描いたと書き、ファイフィールドの伝記(p.179)を典拠に挙げる。本ガイドはファイフィールドを参照しておらず、作曲者の言葉の原文は確認できていない。
第1楽章 Adagio cantabile
民謡による歌の楽章
前奏
1–19
1–19
主題
20–35
20–35
中間部
36–47
36–47
主題の回帰
48–65
48–65
後半と終結
66–85
66–85
※ 幅は小節数に比例。区分名は本ガイドの読み(典拠なし)。練習記号 D は第1楽章の最初の記号で、序奏の A–C から続けて振られている。
主要主題
民謡の主題 m.20(弱起)
独奏が molto espress. で、E♭–B♭ の弱起から C へ下り、E♭–F と上がって G に届く。3/4 のゆっくりした歌で、2小節目から3度・6度の重音になる。下ではハープが tranquillo の分散和音を弾き、ホルンが和音を支える。
前奏の和音 m.1
弱音器をつけた第1ヴァイオリンが高い E♭ を2小節伸ばし、下の声部がゆっくり動いて和音を広げる。管も pp、ハープは p の刻んだ和音。旋律というより響きの帯。
| 区分 | 位置 | 調 | 主題 | 内容・聴取ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 管弦楽の前奏 | mm.1–19D=8 | Es dur | – | 独奏は m.1 に第1ヴァイオリンと同じ1音を弾いて(Tutti.)退き、mm.2–19 を休む。m.8(D)からハープが低音から駆け上がる分散和音、途中で f に高まり、E の直前で p に戻る。 → 聴取:ハープの分散和音が主役の前奏。序奏の暗い変ホ短調から、同じ主音の長調へ明るむ。 |
| 主題(民謡) | mm.20–35E=20 | Es dur | 民謡 A | m.20 の弱起で独奏が民謡を歌い出す。伴奏はハープの分散和音と、弦のピッツィカート、ホルン。旋律はすぐ重音になり、2声で歌われる。 → 聴取:ヴァイオリンとハープの二重唱。ポッターも、ここでハープがヴァイオリンと主役を分け合うと書く。 |
| 中間部 | mm.36–47F=36 | 推移 | – | F でハープが pp の長い上行アルペッジョを繰り返し、管の和音が短調の側へ傾く。独奏は短い句で f に割り込み(mm.38–39)、mm.42–47 で f の長い句を弾く。 → 聴取:和音の色が曇る。ハープの上行が繰り返され、その上で独奏が高く叫ぶ。 |
| 主題の回帰 | mm.48–65G=48 | Es dur | 民謡 A | G で管弦楽が pp sempre の和音を3小節置き、m.51 の弱起から独奏が民謡を頭から歌い直す。伴奏は再びハープの分散和音。 → 聴取:同じ E♭–B♭–C の歌い出し。2度目は途中から f に高まる。 |
| 後半と終結 | mm.66–85H=66/I=79 | Es dur | – | 独奏が弾き続け、H ではハープが短く和音を置くだけになる。I(m.79)からハープが再び加わり、独奏は高音で morendo に消える。m.85 は全パートのフェルマータと終止線。 → 聴取:高い音のまま消えていく。次の楽章とのあいだには終止線があり、序奏からのような attacca ではない。 |
形式上の特異点
- 民謡の同定が資料で割れる。Wikipedia とレーディングは「Through the Wood, Laddie」(「Thro’ the Woods Laddie」)とし、タクソン交響楽団のプログラムノートは「Auld Robin Morris」とする。ポッターは「‘Auld Rob Morris’ あるいは ‘Through the wood laddie’ として知られる」と両方の名を並べる。エマニュエル・ボロウスキーの博士論文(メリーランド大学 DMA, 2018)は、この主題はしばしば「Auld Rob Morris」に帰されるが正しくは「Thro’ the Wood Laddie」だとし、マクギボン(William McGibbon)の Collection of Scots Tunes 第3巻(1742)の譜例と並べて示す。本ガイドの照合もこれと一致した。独奏の歌い出し(E♭–B♭|C–E♭–F…|G)は、同じ1742年のバルサンティの曲集に載る「Thro’ the Wood Laddie」(abcnotation.com 上の後代の転記)の頭を変ホ長調に移した形と重なり、「Auld Rob Morris」の頭(主音から第6音・第5音へ下りる形)とは合わない。The Scots Musical Museum の該当曲は参照していない。
- 独奏が18小節休む。序奏で語っていた独奏が、楽章の頭では冒頭の1音(第1ヴァイオリンと同じ音、Tutti.)だけを弾いてハープと弦に場を譲り、m.20 の弱起で民謡に入る。
- 伴奏の中心がハープ。弦は弱音器をつけてピッツィカートや長い音に回り、分散和音の運動はほとんどハープが担う。
第2楽章 Allegro
民謡による舞曲(スケルツォ風)
導入
1–16
1–16
舞曲
17–96
17–96
B dur
97–112
97–112
全奏
113–128
113–128
舞曲の回帰
129–195
129–195
Adagio
196–213
196–213
※ 幅は小節数に比例。区分名は本ガイドの読み(典拠なし)。3/2 の1小節に、民謡の 3/4 の2小節分が入る。練習記号は A から振り直される。
主要主題
導入の全奏 m.1
弦が f で付点4分と8分の上行(E♭–F–G)を弾き、管が和音で応える。m.9 から弦が ff marcato で下降し、ト長調の属音 D に落ち着く。独奏とハープは休み(ハープは tacet)。
舞曲の主題 m.19
独奏が fp で、B–C–D と3音上がって B–A–G と下りる。付点の弾む音型を3度・6度の重音で弾く。下ではチェロが G–D を8分音符で刻み、コントラバスがピッツィカートで G を打ち、ホルンが長い音を置く(m.17 の「Tanz.」から)。「The Dusty Miller」の旋律と頭が一致する。
| 区分 | 位置 | 調 | 主題 | 内容・聴取ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 全奏の導入 | mm.1–16Allegro | 調号♭3→G へ | – | 調号は♭3つのまま、弦の f と管の和音の応答で始まり、m.6 と m.8 で嬰記号を含む sfz の和音が入る。m.9 から弦が ff marcato で下り、m.13 から D の連打に収まって、m.16 で rit.。 → 聴取:変ホ長調の余韻から、ト長調の入口へ。第1楽章と調がつながらないことを、この16小節が橋渡しする。 |
| 舞曲(民謡) | mm.17–26A=17(Tanz.) | G dur | 民謡 B | m.17 で♯1つに変わり、低音の持続音の上で m.19 に独奏が民謡を弾く。m.23 は Un poco rit. で p grazioso、m.26 で a tempo。 → 聴取:バグパイプの響き。ポッターも、管弦楽がバグパイプのドローンを模すと書く。低音が G と D から動かない。 |
| 旋律が管弦楽へ | mm.27–37B=27 | G dur | 民謡 B | B で第1・第2ヴァイオリンが >p で民謡を受け持ち、独奏はその上で細かい音型を弾く。 → 聴取:旋律と装飾の役が入れ替わる。主題が下の声部に移り、独奏は飾りに回る。 |
| 全奏と独奏の掛け合い | mm.38–70C=38/D=52 | G dur | – | m.38 で全奏が ff、独奏は mm.39–51 を休む。D(m.52)で独奏が ff con brio で戻り、m.62 から弦がピッツィカート。 → 聴取:13小節の全奏。この楽章でいちばん長く独奏が黙るところ。 |
| 優美な挿入 | mm.71–96E=71/F=91 | G dur | – | E で全奏が一度和音を打ち、m.76 から独奏が p grazioso。F の前後に poco rit. と a tempo を繰り返し、m.95–96 で独奏が高い音へ上がる。 → 聴取:踊りが少し緩む。テンポの揺れで、舞曲の合間に息をつく。 |
| 区分 | 位置 | 調 | 主題 | 内容・聴取ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 民謡を変ロ長調で | mm.97–112m.97 a tempo | B dur | 民謡 B | 複縦線で♭2つに変わり、第1ヴァイオリンが pp で民謡(D–E♭–F–D…)を弾き、チェロが刻み、ホルンが長い音を置く。独奏は3連符を含む細かい音型で上を飛び回る(m.104 にトリル)。 → 聴取:同じ踊りが短3度上(変ロ長調)へ移る。音量は pp に落ち、独奏の飾りが前に出る。 |
| 全奏と独奏の重音 | mm.113–128G=113 | 推移 | – | G で全奏 ff、独奏は Tutti. と記されて休む。m.121 で独奏が ff で戻り、mm.125–128 は切れ目のない分散和音。m.128 の複縦線で♯1つに戻る。 → 聴取:独奏の分散和音がそのまま舞曲の回帰へなだれ込む。 |
| 区分 | 位置 | 調 | 主題 | 内容・聴取ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 舞曲の回帰 | mm.129–158H=129/I=141 | G dur | 民謡 B | H で全奏 ff の上に独奏の分散和音が続く。m.137 から独奏が tranquillo p、I(m.141)で lusingando(甘く)、第1フルートの独奏が加わる。m.155 から長いトリル、m.157 に f。 → 聴取:フルートとの対話。ト長調に戻ってから、独奏は力まずに歌う。 |
| 静かな段と Animato | mm.159–195K=159/L=186 Animato | G dur | – | K で全奏が f から pp へ引く。m.165 から独奏が sempre p で長い音、弦は pp e legg.、低弦はピッツィカート。mm.173–178 は独奏のトリル。m.181 から cresc. して、L(m.186)Animato で全奏 ff、独奏は休む。 → 聴取:いちど消え入りそうになってから一気に加速する。最後の盛り上がりは管弦楽だけで作られる。 |
| Adagio の割り込み | mm.196–206m.197 Adagio/m.200 Tempo I/m.202 Adagio | 推移 | – | m.196 のフルパウゼ(フェルマータ)のあと、m.197 で 3/4 の Adagio、ヴィオラが mf espress. で歌い、クラリネットとファゴットが p で支える。m.200 で 3/2 の Tempo I (Allegro) に戻って弦が ff の和音を2度打ち、フェルマータ。m.202 で再び Adagio、独奏が espress. で入る。 → 聴取:舞曲が途中で止まり、遅い歌が2度割り込む。ポッターはこの短い Adagio を第1楽章からの引用と書く。 |
| 変イ長調への移行 | mm.207–213M=207 | As dur | – | M で♭4つに変わり、ハープが f の分散和音で入る。独奏は f sostenuto。m.212 に rit.、m.213 で独奏が E♭ を1音、p で弾いて attacca。 → 聴取:切れ目なく第3楽章へ。最後の E♭ が、次の楽章の変イ長調の属音になる。 |
形式上の特異点
- ドローンの上の舞曲。「Tanz.」と記された主部は、チェロの G–D の刻みとコントラバスのピッツィカート、ホルンの長い音の上で進む。ポッターはこれをバグパイプのドローンと呼ぶ。
- 調号と響きのずれで始まる。楽章の頭の調号は♭3つだが、16小節の導入はト長調の属音 D に着き、主部はト長調。第1楽章の変ホ長調から、調号を残したまま長3度上のト長調へ移る書き方。
- 民謡の同定。ポッター、レーディング、Wikipedia が一致して「The Dusty Miller」とする。ボロウスキーはウォルシュ(John Walsh)の The Compleat Country Dancing-Master(1740)の「Dusty Miller」と譜例を並べ、ホーンパイプの舞曲に基づくとする。本ガイドが後代の伝承譜の電子化(3/4、ト長調)と照合した範囲でも、独奏の B–C–D–B–A–G は頭の音名まで一致した。
- 終わらずに次へ。終止線を持たず、Adagio の挿入から変イ長調に転じて attacca で第3楽章に入る。
第3楽章 Andante sostenuto
民謡による歌の楽章
主題
1–16
1–16
主題の展開
17–40
17–40
H dur・Più animato
41–64
41–64
主調の回復と終結
65–98
65–98
※ 幅は小節数に比例。区分名は本ガイドの読み(典拠なし)。m.62 の Tempo I はロ長調のまま始まり、m.65 で変イ長調に戻る。
主要主題
民謡の主題 m.1
独奏が sempre dolce e p で、A♭–G–F と下り、G–A♭–B♭ と戻って G–E♭ へ落ちる。付点4分+8分の揺れる歌。下では第1ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロが pp で内声を動かす。「I’m a’ doun for lack o’ Johnnie」の伝承譜の頭と一致する。
ホルンの歌 m.20
m.21 で ♩=69 に少し速まる前後、ホルンが p espress. で独奏と並んで歌い、m.24 にオーボエの独奏が続く。独奏ヴァイオリンは f ed espressivo。
| 区分 | 位置 | 調 | 主題 | 内容・聴取ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 主題(民謡) | mm.1–16Andante sostenuto ♩=66 | As dur | 民謡 C | 独奏が第1小節から歌い、前奏はない。mm.1–4 は弦 pp、m.4 から木管(オーボエ・クラリネット・ファゴット)に替わる。ハープは休み。 → 聴取:いきなり歌で始まる。第2楽章の最後の E♭ から、そのまま旋律が流れ出る。 |
| 主題の展開 | mm.17–40A=17/m.21 ♩=69 | As dur | 民謡 C | A でチェロ2人が pp(2 soli)、独奏は2小節休む。m.20 の弱起から独奏が f ed espressivo、ホルンの独奏が並び、m.24 にオーボエ。m.28 からヴィオラとチェロが分割で和音を支える。 → 聴取:ホルンとの二重唱。独奏の旋律にホルンの柔らかい声が寄り添う。 |
| ロ長調と Più animato | mm.41–64B=41/m.44 Più animato ♩=76/C=54 | H dur | – | 複縦線で♯5つに変わり、独奏が stringendo で高まる。m.44 の Più animato でハープが f の分散和音で入り、ヴィオラとチェロが f molto espress.、弦のトレモロ。独奏は m.47 に f で戻り、m.48 から appassionato。C でオーボエが molto espress.、mm.56–57 に rit. molto。 → 聴取:この楽章でハープが鳴るのはここから。変イ長調から短3度上(変ハ長調)を♯側で書いた調で、響きが一段明るく、熱くなる。 |
| 主調の回復 | mm.62–85m.62 Tempo I/m.65 As dur/D=70 | As dur | 民謡 C | m.62 の Tempo I はロ長調のまま、m.65 の複縦線で♭4つに戻る。独奏は morendo で pp に沈み、D で管弦楽だけになる(ティンパニのロール pp)。m.74 の弱起から独奏が f で戻る。 → 聴取:ティンパニの静かなロール。独奏が黙った4小節で、元の調に戻ったことが分かる。 |
| 終結 | mm.86–98E=86 | As dur | – | 独奏が弾き続け、最後の2小節は A♭ の全音符を pp でフェルマータまで伸ばす。m.98 は全パートのフェルマータと終止線。 → 聴取:低い A♭ で静かに終わる。終楽章とのあいだは切れる。 |
形式上の特異点
- 前奏なしで独奏が歌い出す。第2楽章からの attacca を受けて、独奏が第1小節から民謡を弾く。5つの部分のなかで、独奏が冒頭から旋律を持つのはこの楽章だけ(第1楽章の主題は19小節の前奏のあと、第2楽章は導入の16小節のあと、終楽章は独奏とハープの和音で始まる)。
- ハープの記譜。ロ長調の段(mm.41–64)で、管弦楽が♯5つを刷るのに対し、ハープの段は♭7つ(変ハ長調)で書かれる。響きは同じ。ハープの側の書き方は、この段が変イ長調から短3度上の変ハ長調への転調であることをそのまま示している(ペダルの都合もあるかもしれないが、本ガイドは確かめていない)。
- 民謡の同定。ポッター、レーディング、Wikipedia、タクソン響のノートが一致して「I’m a’ doun for lack o’ Johnnie」とする。独奏の A♭–G–F|G–A♭–B♭–G–E♭ は、この歌の伝承譜(変ロ長調、3/4)の頭を変イ長調に移した形と音の並びが一致する(本ガイドの照合。拍子は Bruch では 4/4)。ボロウスキーも、ジョージ・グレアム編 The Songs of Scotland 所収の旋律と譜例を並べて同じ同定をしている。
第4楽章 Finale. Allegro guerriero
民謡による行進曲風の楽章
主題と変奏
1–36
1–36
C dur の歌
37–56
37–56
Tempo I
57–81
57–81
As dur
82–93
82–93
E dur
94–108
94–108
主調の回帰
109–185
109–185
Adagio・終結
186–195
186–195
※ 幅は小節数に比例。区分名は本ガイドの読み(典拠なし)。調の区分は全奏が主題を打ち出す位置で切った(E=m.82、F=m.94、G=m.107 のハ長調の和音から m.109 で♭3つへ)。
主要主題
民謡の主題 m.1
冒頭4小節は独奏が ff の4音の重音で和音を連打し、伴奏はハープの和音だけ。旋律の形がいちばん聞き取りやすいのは m.9 で、独奏が p でB♭ の同音を4つ打ってから、付点の B♭–C を経て E♭ へ跳ぶ(下に3度の重音)。この付点が、ポッターのいうスコットランドの「スナップ」。「Hey tuttie tatie」(のちにバーンズが「Scots wha hae」の詞をつけた旋律)とされる。
ハ長調の歌 m.37
Un poco tranquillo。ホルンが f で和音を打ったあと、m.40 の弱起から弦が p で、順次進行でゆっくり上下する歌を示す。m.44 の弱起から独奏が espress. で3度の重音(E/C–F/D–E/C–D/B–E/C…)で受け継ぎ、m.49 で Un poco allargando、molto espress.、ハープの p の分散和音。ポッターのいう「より抒情的な副主題」。ボロウスキーは、この副主題がハ長調・変イ長調・ホ長調を巡って変ホ長調に戻ると書く。
| 区分 | 位置 | 調 | 主題 | 内容・聴取ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 独奏とハープの主題 | mm.1–4Allegro guerriero ♩=100 | Es dur | 民謡 D | 管弦楽は4小節休み、独奏の重音とハープの和音だけで主題を示す。m.4 のあと複縦線。 → 聴取:独奏とハープだけの ff。全奏より先に、ふたりで軍歌を打ち鳴らす。 |
| 全奏と独奏の交替 | mm.5–18A=5/B=14 | Es dur | 民謡 D | A で全奏 ff が主題を受け、m.9 から独奏が p でハープと戻る。m.13 の rit. のあと B で再び全奏 ff、m.18 の rit. とフェルマータで止まる。 → 聴取:全奏と独奏+ハープの交互。大きな編成と小さな編成が入れ替わる。 |
| 独奏の変奏 | mm.19–36 | Es dur | 民謡 D | m.19 で独奏が Solo con brio、弦は pizz. marcato、ハープが通して加わる。m.31 に poco rit.、m.32 に a tempo、m.35 の rit. のあと m.36 で全パートのフェルマータ。 → 聴取:ピッツィカートとハープの上の名技。独奏が主題の断片を重音と走句で飾り続ける。 |
| ハ長調の歌 | mm.37–56C=37 Un poco tranquillo | C dur | 副主題 | 複縦線で調号なしに変わり、ホルンが f で和音を打ち、弦はピッツィカート(独奏は Tutti. で休み、ハープも休む)。m.40 の弱起から弦が p で副主題を歌い、m.44 の弱起から独奏が Solo. espress. で受け継ぐ。m.49 に Un poco allargando、ハープの分散和音。 → 聴取:行進が止まり、歌になる。弦が先に歌い、独奏が重音で引き継ぐ。 |
| Tempo I | mm.57–81D=57 Tempo I | 推移 | 民謡 D | D で元の速さに戻り、m.60 の弱起から独奏。m.64 に p e dolce、m.68 に poco rit.、m.69 に a tempo、mm.75–77 は tranquillo の走句とトリル、m.78 に un poco rit.。m.81 のあと複縦線で♭4つへ。 → 聴取:独奏が静かに引いていき、ティンパニの cresc. が次の全奏を呼ぶ。 |
| 区分 | 位置 | 調 | 主題 | 内容・聴取ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 全奏の主題(変イ長調) | mm.82–93E=82 | As dur | 民謡 D | E で全奏 ff が軍歌の主題を♭4つで打ち出す(ティンパニは Es・As に調律替え)。m.86 から独奏が p dolce espress.、弦のピッツィカートとハープ。m.93 のあと複縦線で♯4つへ。 → 聴取:軍歌が完全4度上の変イ長調で戻る。続く独奏(m.86)は軍歌ではなく、ハ長調で聴いた副主題(A♭/C–B♭/D–A♭/C–G/B♭…)を変イ長調で歌う。 |
| 全奏の主題(ホ長調) | mm.94–108F=94/G=107 | E dur | 民謡 D | F で全奏 ff がホ長調で軍歌の主題を打つ。m.98 の弱起から独奏とハープ(ボロウスキーは副主題がホ長調にも回るとする。本ガイドはこの段で副主題の位置を確かめきれていない)。G(m.107)で全奏がハ長調の和音で主題の頭を打ち、m.108 に独奏が ff で応える。 → 聴取:同じ主題の調が、変イ→ホ→ハと目まぐるしく変わる。全奏の ff が来るたびに調が替わっている。 |
| 区分 | 位置 | 調 | 主題 | 内容・聴取ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 主調の回帰 | mm.109–139H=118/I=130 | Es dur | 民謡 D | m.109 の複縦線で♭3つに戻り、全奏と独奏が主題を打ち交わす。H で全奏だけの4小節、m.122 で独奏が Solo. f con brio、弦はピッツィカート、ハープ。I の前に複縦線、m.134 に poco rit.、m.135 に a tempo、ff con brio。 → 聴取:冒頭の「独奏+ハープ+ピッツィカート」の組み合わせが戻る。 |
| Stringendo と歌の段 | mm.140–158K=140 a tempo, stringendo | Es dur | – | m.139 の poco rit. とフェルマータのあと、K で全奏が stringendo。m.143 の弱起から独奏、m.148 に dolce, grazioso、m.151 に poco rit.、m.152 に a tempo。 → 聴取:急き込んだあとに、独奏が甘く歌う。 |
| 長いトリルと allargando | mm.159–185L=159 | Es dur | – | L で独奏が cresc.、mm.160–163 は全音符のトリル、m.164 から molto espress.、m.165 からハープが mf で加わる。m.176 に grazioso、木管が短い独奏を順に受け渡し、m.178 から allargando、m.182 から decresc. e dimin.、sempre p。 → 聴取:行進曲が急に遠のく。独奏の細かい音型だけが残り、音量が下がっていく。 |
| Adagio:第1楽章の民謡 | mm.186–190M=186 Adagio/m.188 3/4/m.189 in tempo | Es dur | 民謡 A | M で Adagio、独奏のトリルと ritard.。m.188 は 3/4 で管弦楽がフェルマータで待ち、独奏が pp ad libit. で下りてくる。m.189 の in tempo espress. で独奏が E♭–B♭|C–E♭–F と第1楽章の民謡の頭を弾き、弦が ppp、ハープが pp。m.190 はフェルマータの音から Allegro の ff の走句。 → 聴取:最後の全奏の直前に、第1楽章の歌が一瞬だけ戻る。弦は ppp で、独奏は morendo。 |
| 終結 | mm.191–195N=191 | Es dur | 民謡 D | N で 4/4 に戻って全奏 ff、独奏とハープも最後まで弾く。m.194 に rit. molto、m.195 の終止線にフェルマータ。 → 聴取:5小節で一気に閉じる。ポッターは終わりを「Scots wha hae」の最後の断固とした宣言と呼ぶ。 |
形式上の特異点
- 管弦楽より先に独奏とハープ。終楽章は4小節のあいだ、独奏の4音の重音とハープの和音だけで主題を示し、全奏は A(m.5)でようやく入る。題名がハープを名指しすることの、いちばんはっきりした現れ。
- 主題が調を替えて全奏で戻る。全奏の ff は変ホ長調(A・B)のあと、変イ長調(E)、ホ長調(F)、ハ長調の和音(G)を経て変ホ長調に戻る。変イ長調の段では、全奏の軍歌のあとに独奏が副主題を歌う(m.86、総譜で確認)。ボロウスキーは副主題がハ・変イ・ホを経て変ホ長調に戻ると書き、フィドルの変奏曲集(オズワルド Caledonian Pocket Companion 第3巻, 1760)と同じ4小節単位の区切りと複縦線に注目する。ロンドの主題回帰のようでもあり、変奏のようでもあるが、典拠は形式名を挙げていない。
- 最後に第1楽章の民謡。M の Adagio(m.189)で独奏が第1楽章の主題の頭(E♭–B♭|C–E♭–F)を弾く。Wikipedia も「Through the Wood, Laddie」が終楽章の終わりに戻るとする。ボロウスキーはこれをコーダでの「Thro’ the Wood Laddie」の morendo の回帰と呼ぶ。ポッターは「以前の素材が回想される」とだけ書く。
- 民謡の由来。「Hey tuttie tatie」は1314年のバノックバーンの戦いでスコットランド軍が奏したと伝えられ、バーンズがロバート・ブルースの檄として「Scots wha hae」の詞をつけた旋律(ポッター)。ベルリオーズも序曲《ロブ・ロイ》で用いている(同)。m.9 の独奏の B♭–B♭–B♭–B♭–C–E♭ は、「Scots Wha Hae」の伝承譜の頭(ヘ長調で C–C–C–D–C–D–F)を変ホ長調に移した形とほぼ重なる(本ガイドの照合。Bruch は途中の1音を省いて付点に詰めている)。ボロウスキーは、ブルッフの扱いをオズワルドの曲集(1760)の「Hei tuti teti」のフィドル変奏と比べ、スナップのリズム・3連の16分音符・跳躍を共通点に挙げる。
参考文献
- Tully Potter, CD 解説, Hyperion CDA68050(Jack Liebeck/BBC Scottish Symphony Orchestra/Martyn Brabbins、2013年録音、2014年発売。レーベルのブックレット)— 作曲の時期と場所、The Scots Musical Museum、各楽章の民謡、「老いた吟遊詩人」、1880年7月30日のジムロック宛書簡、1881年2月22日リヴァプール初演、1883年ロンドン。楽章の演奏時間(ブックレットのトラック表)。
- Alexander Rehding, プログラムノート「Bruch – Scottish Fantasy」(ボストン交響楽団サイト。楽団の解説文)— 初演、The Scots Musical Museum、各楽章の民謡。
- 英語版 Wikipedia「Scottish Fantasy」(百科事典。Fifield 1988 ほかを典拠に挙げる)— 各楽章の民謡、第2・第4楽章末尾への回帰、1868年ミュンヘンの図書館の話、1883年ロンドン。
- Emmanuel A. Borowsky, Folkloristic and Ethnic Influences in Selected Violin Repertoire: A Study of Music Inspired by Scottish, Jewish, and Latin American Cultures(University of Maryland, DMA 論文, 2018。PDF)— 本文 pp.9–15 の本作の節だけを参照。4つの民謡の原曲資料(McGibbon 1742, Walsh 1740, Graham, Oswald 1760)と Bruch の譜例比較、「Auld Rob Morris」ではなく「Thro’ the Wood Laddie」とする同定、終楽章の副主題の調の巡り、Fifield を典拠とする「老いた吟遊詩人」の出所。
- タクソン交響楽団のプログラムノート(楽団の解説文、著者名の表示なし)— 第1楽章を「Auld Robin Morris」とする記述。
- 民謡の照合に使った伝承譜の電子化(abcnotation.com 経由):「Thro’ the Wood Laddie」=Francis Barsanti, A Collection of Old Scots Tunes(1742)p.12 の John Chambers による転記、および O’Farrell’s Pocket Companion vol.2 の転記/「Auld Rob Morris」=Caledonian Musical Repository(1811)の John Chambers による転記、W. Hamilton Universal Tune-Book(1844)の転記/「Hey, the dusty miller」=伝承曲集の転記(出所表示は england)/「I’m a’ doun for lack o’ Johnnie」=Journal of the English Folk Dance and Song Society(1936)所収の転記(folkinfo.org)/「Scots Wha Hae」=Kevin Briggs による現代の転記。いずれも The Scots Musical Museum そのものではない。
- Christopher Fifield, Max Bruch: His Life and Works(1988)— 本ガイドは参照していない。
- Michael Steinberg, The Concerto: A Listener’s Guide(Oxford University Press, 2000)— 本ガイドは参照していない。
- James Johnson (ed.), The Scots Musical Museum(1787–1803)— 本ガイドは参照していない。
- IMSLP の作品ページ — 楽章構成の表記、献呈、初版、編成。
- 楽譜(底本):総譜、N. Simrock(ベルリン, 1880、図版番号 8176、初版)、ロチェスター大学シブリー音楽図書館のスキャン、IMSLP #503883。練習記号は楽章ごとにアルファベットで振り直し(序奏 A–C は第1楽章の D–I に続く)。
- 楽譜(照合用):独奏ヴァイオリンとピアノのための作曲者編曲、N. Simrock(1880、図版番号 8178)、IMSLP #237319。
第1版 | 初版 2026-09-28 | 最終改訂 2026-09-28