楽曲ガイド 作品と関連記事

ブルックナー:交響曲第4番 変ホ長調「ロマンティック」WAB 104

Anton Bruckner, Symphony No. 4 in E-flat major „Romantische“, WAB 104 — Fassung von 1888(Erstdruck Gutmann 1889)

主調の地図:変ホ長調(I)に発し、ハ短調(II)・変ロ長調(III)を経て、終楽章は変ロ短調の霧から変ホ長調へ抜ける。1888年稿の小節番号を初版総譜で実測した。

対象:1888年稿(Gutmann 初版1889に拠る)

出典・底本
対象は1888年稿(第3稿)。本文は Gutmann 初版(1889)に拠る。この稿の現代の校訂版はブルックナー全集 IV/3(ベンジャミン・コーストヴェット校訂、Musikwissenschaftlicher Verlag Wien, 2004)だが、本ガイドはこの校訂版を参照していない。出版社 MWV の作品ページは、1889年の初版は1888年稿の浄書譜と「ほぼ完全に一致」するが、「真正とは見なされない改訂」がいくつか例外として含まれると説明している。したがって本ガイドの楽器・強弱・テンポ標語の記述に、校訂版では採られていない初版の読みが混じっている可能性は残る(どれが該当するかは、校訂版を見ないと特定できない)。主な分析ソース:Benjamin M. Korstvedt, "The First Published Edition of Anton Bruckner's Fourth Symphony: Collaboration and Authenticity", 19th-Century Music 20/1 (1996): 3–26(査読誌。abruckner.com 所収。以下 Korstvedt 1996)——1888年稿の楽章ごとの小節数、終楽章の区分表(調・小節・テンポ標語)、1888年の改訂点の一覧。Joseph Lalumia, Anton Bruckner's Symphony No. 4 in E-flat Major: A Motivic Analysis(イーストマン音楽学校・修士論文・1978。abruckner.com 所収)——第1〜第3楽章の主題と調。
位置の準拠:本ガイド実測(底本:Gutmann 初版総譜 Wien 1889、図版番号 A.J.G. 710。IMSLP #562137、1890年以降の刷り)。コーストヴェット版の総譜そのものは参照していない。同版の底本は初版のための浄書譜(Stichvorlage)で、Korstvedt 1996 はその本文が初版と「ほぼ同一」だと述べ、終楽章の小節番号も初版から採っている。本ガイドは初版を楽章ごとに頭から数えた。照合は3系統ある。(1) 楽章ごとの総小節数(第1楽章573・第2楽章247・終楽章507)が Korstvedt 1996 の表と一致した。(2) 終楽章は Korstvedt 1996 の区分表(表2)の23か所の小節番号がすべて一致し、そこに載る18のテンポ標語も、m.79 を除いて一致した(表2は m.79 を「Bewegt (doch etwas breit)」とするが、初版は「Belebt. (doch etwas breit)」。本ガイドは初版に従った)。(3) 第1・第2楽章は、スキャンされた譜面に以前の所蔵者が鉛筆で書き込んだ小節番号とすべて一致した。第3楽章は鉛筆の番号がないので、スケルツォ部分を2人で別々に数え、食い違った2ページを本ガイドで数え直した。スケルツォ255小節・再現191小節は Korstvedt 1996 の表1と一致した。トリオは印刷上47小節あるが、1番括弧と2番括弧を同じ番号にすると46小節になり、楽章の通し番号は m.492 で終わる。これは同論文が浄書譜の番号で示す楽章末「m.492」と合う。括弧を同じ番号で数えるのは、この一致から逆算した本ガイドの推定で、コーストヴェット版の番号の振り方は確かめていない。
調は、終楽章は Korstvedt 1996 の表、第1〜第3楽章は Lalumia による。Lalumia が使うのは1878/80年稿(ノヴァーク版)の小節番号である。第1・第2楽章は、1888年稿でも小節数が同じで外形も変わらない(Korstvedt 1996)。区分の境目(第1楽章 m.75・119・169・193・333・365、第2楽章 m.25・51・101・129)も本ガイドの実測と一致したので、その調をそのまま当てた。典拠のない区分の調は書いていない。楽器・強弱・テンポ標語は、人名を添えていない限り本ガイドの総譜読みによる。旋律の音名は実音に換算した。
参照録音:オスモ・ヴァンスカ指揮ミネソタ管弦楽団/BIS(BIS-SACD-1746、コーストヴェット版。録音年は一次資料で未確認)。楽章の長さはレーベル配信ページの表記で I 18:18・II 16:27・III 9:10・IV 19:26。区分ごとの時間目安(≈mm:ss)は付けていない。この盤のトラックは楽章単位で、区分の境目と一致しないため。
本文で言及する論:Korstvedt(1888年稿の真正性・改訂の中身)/Lalumia(主題と調)/Paul Hawkshaw(Capriccio 盤の解説)。
稿の真正性は争点である。ハースが1936年に1878/80年稿を校訂出版して以来、Gutmann 初版は弟子のレーヴェとシャルク兄弟による改訂で作曲者の意図を表さない、という見方が長く通説だった。デリック・クックはこの初版を「完全にまがいものの総譜」と呼んだ(Korstvedt 1996 の引用による)。本ガイドが第1〜第3楽章の主題と調に使う Lalumia も同じ立場で、Gutmann 版を作曲者の真意を表さない弟子の改訂とし、ブルックナーが浄書譜の改訂に署名しなかったことを「内心の不承認」の証拠に挙げ、ハース版とノヴァーク版を「権威ある版」とする(Lalumia pp.3–5)。これに対し Korstvedt 1996 は、初演時点の本文を残すパートと、初演後に作曲者が自筆で改訂した浄書譜とを照合し、パートに残る特異な読みのほぼすべてが、ブルックナー自身が浄書譜で直した箇所に当たることを示して、1888年稿は作曲者が関わり承認した稿だと論じる(p.13, 表4)。ただし表4が挙げるのは弦の箇所で、管楽器の改訂についての証拠は決定的でないと Korstvedt 自身が書いている。MWV の全集もこの見方に立って1888年稿を IV/3 として収めている。本ガイドは Korstvedt の側に立って1888年稿を独立した稿として扱うが、Lalumia から借りたのは区分・主題・調という稿に左右されにくい部分だけで、真正性についての Lalumia の結論は採っていない。

全4楽章の俯瞰

楽章形式主調拍子1888年稿での変型聴きどころ
I. Ruhig bewegt (Allegro molto moderato)ソナタ形式変ホ長調¢形は同じ。テンポ変化の指示が増え、金管の全奏を軽くし、弱音器の区間を足した弦のさざめき(トレモロ)の奥からホルンが遠く呼びかけて始まる。この呼び声と、全奏のユニゾンで刻む「2つ+3つ」のリズムの二つを覚えておくと、楽章の最後まで道に迷わない。
II. Andanteソナタ形式(二つの主題と展開部)ハ短調C形は同じ。♩=66 の指示が加わった弱音器をつけた弦の刻みの上で、チェロが低くハ短調の歌を歌う。後半、同じ歌が大きく膨らんで頂点を築き、最後はティンパニの静かな刻みに消えていく。
III. Scherzo. Bewegt / Trio. Gemächlichスケルツォ—トリオ—スケルツォ変ロ長調 / 変ト長調2/4 / 3/4再現を短縮し、スケルツォの終わりを静かにトリオへつないだ「狩り」と呼ばれるホルンの呼び交わし。トリオは素朴な舞曲(レントラー)で、フルートとクラリネットがのどかに歌う。
IV. Finale. Mäßig bewegtソナタ形式(三つの主題群)変ロ短調 → 変ホ長調¢ / 4/4再現部の冒頭にあった第1主題の大全奏を削った。シンバルが3打低い弦の刻みから始まり、全奏のユニゾンが変ホ短調で爆発する。テンポが何度も変わり、長い回り道を経て、最後の数十小節で変ホ長調の光にたどりつく。
楽章をまたぐ仕掛け:どの楽章もホルンが要所を担う(第1楽章の冒頭ソロ、第2楽章の歌の受け渡し、第3楽章の狩りの呼び声、終楽章の第1主題とコーダ)。これは本ガイドの総譜読みで、作曲者の標題ではない。主調は変ホ長調(I)→ハ短調(II)→変ロ長調(III)→変ロ短調に始まり変ホ長調で閉じる(IV)。
1888年稿とは何か。1878/80年稿を上演用に仕上げ直した稿である。1888年1月22日にハンス・リヒター指揮ウィーン・フィルが演奏したが、そこで鳴ったのは2月の改訂前の段階の本文で、初演パートにその状態が残っている。ブルックナーは初演後の同年2月、初版のための浄書譜に自分で大幅に手を入れて日付を書き込み、この譜が1889年9月に Gutmann 社から出版された(Korstvedt 1996, p.13 ほか)。本ガイドが扱う1888年稿(初版の本文)は、この初演後の改訂を含んだものである。改訂作業にはフェルディナント・レーヴェとシャルク兄弟が関わった。そのためハース(1936)以降、この稿は「弟子の改竄」として退けられ、ノヴァーク版(1878/80年稿)が標準になった。Korstvedt 1996 は浄書譜と初演パートの照合から、作曲者自身が承認し手を入れた「最終稿」だと論じ、2004年に全集版として校訂した。どこまでがブルックナー自身の筆かは、今も論者によって幅がある(Hawkshaw は Korstvedt の結論をおおむね受け入れつつ、この点を開いたままにしている)。

第1楽章 Ruhig bewegt (Allegro molto moderato)

ソナタ形式
主調:Es dur¢ 𝅗𝅥=72全573小節
提示部
mm.1–192
展開部
mm.193–364
再現部
mm.365–500
コーダ
mm.501–573
※ 幅は小節数に比例。区分は Lalumia(1878/80年稿の番号)による。1888年稿でも同じ小節に同じ区切りがあることを本ガイドの実測で確かめた。
主要主題
第1主題(ホルンの呼び声)m.3
実音で B♭ を長く伸ばし、5度下の E♭ へ長短のリズムで降り、また B♭ へ戻る。2度目の呼びかけ(m.7)は B♭ より半音高い C♭ から始まり、和音の色が一瞬かげる。第1ホルン独奏、p ausdrucksvoll。下では弦が ppp のトレモロで変ホ長調の和音を保ち、コントラバスが E♭ を伸ばす。m.19 からは木管が同じ呼び声を引き継ぐ。
全奏のユニゾン m.51
二連符と三連符をつなげた「2つ+3つ」の刻み(いわゆるブルックナー・リズム。Lalumia の主題 I.2)。全奏が ff で一斉に打ち込み、トランペットとトロンボーンはここで初めて鳴る。ホルンの呼び声の静けさと正反対の、硬い岩のような音。
第2主題(歌の段)m.75
第1ヴァイオリンの歌にヴィオラの対旋律が絡む二重唱(Lalumia)。etwas gemächlich(少しくつろいで)。変ニ長調で、主調から見て属調ではなく全音下の調に置かれる。m.77 から第1ホルンが pp で合いの手を入れる。
提示部 mm.1–192
区分位置調主題内容・聴取ポイント
第1主題群 a m.1Ruhig bewegt Es dur P1 弦の ppp トレモロで始まり、m.3 で第1ホルンの独奏が入る。m.19フルート・オーボエ・クラリネットが呼び声を受け継ぎ、ホルンは (weich)(柔らかく)で添う。m.43Langsamer。フルートは sehr weich、第1ヴァイオリンは zart。
→ 聴取:ホルンの一声目と二声目の違い。二声目は半音上の C♭ から始まり、同じ呼び声が一瞬だけ翳る。
第1主題群 b m.51A · Tempo I Es dur P2 全奏の ff ユニゾン。弦は ff (sehr kräftig)。1888年稿はこの区間(mm.51–74)の金管を1878/80年稿より軽くしている(Korstvedt 1996)。
→ 聴取:「2つ+3つ」の刻みが全奏で鳴る。この楽章の二つ目の柱。
第2主題(歌の段) m.75B · etwas gemächlich Des dur S 第1ヴァイオリンの歌とヴィオラの対旋律。m.87Etwas belebter(少し活気づいて)。管が f で加わる。m.92Wieder beruhigend(また静まって)。m.97練習記号 C。第1ヴァイオリンが ausdrucksvoll で歌を続ける。
→ 聴取:二本の弦の線がからみ合う。上の歌だけでなく、内声のヴィオラを追うと立体的に聞こえる。
第3主題群 m.119D B dur T 全奏 ff。弦は16分音符で動き続ける。m.127木管とホルンが fff。m.141練習記号 E、ff。ホルンは stark aushalten(強く保って)。m.165練習記号 F。金管が ff。m.168金管の rit. と短いフェルマータ (kurz)。
→ 聴取:属調(変ロ長調)の大きな山。提示部でいちばん音量が上がるところ。
終結部 m.169etwas breit – K 弦が f で etwas breit(少し幅広く)。m.173弦 pp sehr zart。m.179pp ruhig。m.192 で複縦線。提示部の反復はない。
→ 聴取:山の直後に一気に静まる。展開部の弱音器の響きへ、そのまま橋が架かる。
展開部 mm.193–364
区分位置調主題内容・聴取ポイント
弱音器の展開 m.193G – P1 弦が弱音器をつけ(mit Dämpfer)pp で入る。mm.193–213 の弱音器は1888年稿で加わった(Korstvedt 1996)。m.209クラリネット、m.211フルートが ruhig で呼び声の断片を出す。m.217練習記号 H。弦が弱音器を外し、第1ホルンが p sanft hervortretend(柔らかく浮き出て)。
→ 聴取:弦の音色が一段くもる。弱音器の区間が明けるところで、ホルンが遠くからもう一度呼ぶ。
全奏の頂点 m.253J – P2 全奏 fff、弦は fff sempre / marcato。m.262オーボエと第2ヴァイオリンに stark hervortreten(強く浮き出て)。m.279再び全奏 fff。m.287練習記号 K。全奏が和音を断ち切る。1888年稿は mm.253–269 の金管を軽くしている(Korstvedt 1996)。
→ 聴取:「2つ+3つ」の刻みが展開部の芯になる。全奏が断ち切られたあとの空白も聴く。
静かな再建 m.290 – P1 第1ホルンが sanft hervorgehoben。m.296クラリネット・ホルン・ヴィオラが mf (sehr) bestimmt(はっきりと)。m.305全奏 ff sempre、トランペットとトロンボーンは f gut gehalten(よく保って)、弦はピツィカート。1888年の浄書譜でブルックナーはこの前後(mm.305–329)を自筆で書き直し、上の木管を足している(Korstvedt 1996)。
→ 聴取:ピツィカートの上に金管の長い和音が立つ。1888年稿で手の入ったところ。
再現部への移行 m.333L · Langsamer – S 全奏の pp の断ち切りのあと、第2ヴァイオリンが pp sehr ausdrucksvoll で歌い出す。Lalumia はここで第2主題の対旋律が拡大されて現れると読む。m.340rit.。m.350Immer ruhiger(いっそう静かに)。
→ 聴取:音楽が止まりそうなほど遅くなる。その静けさの底から再現部が現れる。
再現部・コーダ mm.365–573
区分位置調主題内容・聴取ポイント
第1主題群 a m.365M · Tempo I Es dur P1 Tempo I (sehr ruhig und feierlich)(とても静かに、厳かに)。第1・第3ホルンの呼び声に、フルートと第1ヴァイオリンが ppp so ruhig und leise als möglich(できるかぎり静かに、ひそやかに)の対旋律を重ねる。第1ヴァイオリンは弱音器つき(1888年稿の追加。mm.365–376。Korstvedt 1996)。m.381弦が弱音器を外す。m.405Langsamer。
提示部との差異:ホルンの上にフルートの対旋律が加わる(Lalumia)。
→ 聴取:冒頭の呼び声に、高いところから細い線が添えられる。同じ主題が、提示部より遠く澄んで聞こえる。
第1主題群 b m.413N · Tempo I Es dur P2 全奏 ff の刻みが戻る。第2ヴァイオリンは sehr kräftig。m.421木管 ff sempre、弦 markirt。
→ 聴取:提示部の m.51 と同じ岩が戻る。
第2主題(歌の段) m.435O Ces dur S m.437 から第1ヴァイオリンが p ausdrucksvoll で歌い、チェロとコントラバスは pp のピツィカート。調は変ハ長調(記譜上はロ長調。Lalumia)。m.457練習記号 P、ff。
提示部との差異:歌が変ニ長調から変ハ長調へ全音下がる。
→ 聴取:同じ二重唱が一段低い調で戻る。
第3主題群 m.485Q Es dur T 全奏 ff。m.491Belebend(活気づいて)。m.493全奏 fff。m.496全奏が断ち切られ、弦が弱まっていく。
提示部との差異:第3主題群は主調で戻り、提示部の50小節が16小節に縮む(Lalumia)。
→ 聴取:提示部よりずっと短い。山はすぐに崩れてコーダの静けさに入る。
コーダ m.501 Es dur – 弦 ppp。m.504オーボエが ausdrucksvoll、クラリネット・ファゴット・ホルンが p で加わる。m.517練習記号 R、ff。m.533練習記号 S、フルート2本が pp (ruhig)。m.545弦 poco a poco cresc.。m.549第1トランペットが p hervortretend。m.553etwas zurückhaltend(少し抑えて)。m.557Tempo I、ff。ホルンは so stark als möglich(できるかぎり強く)。
→ 聴取:m.557 からの全奏の頂点。最後は和音の打撃と休符が交互に来て、m.573 の fff で閉じる。
形式上の特異点
  • 第2主題が属調ではない。変ホ長調の楽章で、第2主題(歌の段)は変ロ長調(属調)ではなく変ニ長調に置かれる(Lalumia)。属調の変ロ長調は第3主題群まで取っておかれる。再現部の歌は、さらに全音下の変ハ長調で戻る。
  • 三つの主題群。ブルックナーのソナタ形式は、第1主題群・第2主題(歌の段)・第3主題群の三つを並べる。この楽章では、ホルンの呼び声・「2つ+3つ」の全奏・歌の段・変ロ長調の全奏の四つの性格が交代する。
  • 1888年稿は形を変えず、響きとテンポを変えた。Korstvedt 1996 によれば、第1楽章の外形は1878/80年稿と同じで、主な変化は次の3点。全奏の金管を軽くした(mm.51–74、253–269)。弦に弱音器を足した(mm.193–213、365–376)。テンポなどの演奏指示を大幅に増やした。1888年稿の総譜には Langsamer(m.43、333、405)、Etwas belebter(m.87)、Immer ruhiger(m.350)のようなテンポの指示が随所にある(個々の指示が1888年の新規かどうかは、本ガイドでは1878/80年稿と突き合わせていない)。ほかに木管と弦の重ねを足し(mm.103–107、365–376)、浄書譜では mm.305–329 などの書法を書き直している(同)。
  • 作曲者の日付。浄書譜の m.356 のあとに「fertig z. 3 Male. Feb. 88」、楽章末に「ganz fertig 8. Feb.」とブルックナーの書き込みがある(Korstvedt 1996)。初演(1888年1月22日)のあとに作曲者自身が手を入れた証拠として、同論文の議論の柱になっている。

第2楽章 Andante

ソナタ形式(二つの主題と展開部)
主調:c mollC ♩=66全247小節
提示部
mm.1–100
展開部
mm.101–128
再現部・コーダ
mm.129–247
※ 幅は小節数に比例。区分は Lalumia(1878/80年稿の番号)による。1888年稿でも同じ小節に同じ区切りがあることを本ガイドの実測で確かめた。
主要主題
第1主題 m.3
チェロが低い音域で歌う8小節の旋律(Lalumia)。p ausdrucksvoll。上では第1・第2ヴァイオリンとヴィオラが弱音器つき pp で刻む。歩くような4拍子で、葬送行進曲に近い性格。mm.13–20 で木管が繰り返す。
第2主題 m.51
ヴィオラが弱音器なし(p ohne Dämpfer)で歌う長い旋律。ヴァイオリンは弱音器をつけてピツィカート、チェロもピツィカート。Lalumia によれば32小節にわたり、ト短調から始まってハ長調に至る。Etwas langsamer。
提示部 mm.1–100
区分位置調主題内容・聴取ポイント
第1主題 m.1Andante ♩=66 c moll P 弱音器つきの弦の刻み。m.3 からチェロの歌。m.13弦が弓に戻り(Bogen)、フルート・オーボエ・クラリネットが主題を繰り返す。m.18トランペット pp。
→ 聴取:主役がチェロであること。高い弦は伴奏に回り、歌は低い音域に置かれる。
コラール風の楽句 m.25B – P′ 弦が弓で p からクレッシェンド。m.32弦がすべて弱音器を外す。m.35管 ff に対して弦は p。m.39フルート ff、チェロ・コントラバス f Bog.。m.44ティンパニのトリル pp、ホルンの和音。m.50練習記号 C。全員が休む1小節。
→ 聴取:m.50 の全休止。音が止まった1小節のあとに第2主題が来る。
第2主題 m.51Etwas langsamer g moll → S ヴィオラの歌。弱音器をつけたヴァイオリンのピツィカートが支える。m.67練習記号 D、弦 pp。m.71f。
→ 聴取:中音域のヴィオラが旋律を持つ。オーケストラでヴィオラが長い主旋律を任される場面はめずらしい。
終結部 m.83 – K 第1フルートと第1ホルンの独奏。m.86木管のコラール p、第3ホルン pp。m.92フェルマータ。m.93弦が弱音器を外して弓で p、チェロ・コントラバスは mp deutlich hervortretend(はっきり浮き出て)。m.99弦 ff。m.100rit.。
→ 聴取:木管の短いコラール。フェルマータで一度止まってから、低弦が前に出る。
展開部 mm.101–128
区分位置調主題内容・聴取ポイント
第1主題の展開 m.101E · a tempo Ces dur → P 第1ホルンが mf ausdrucksvoll で第1主題を吹き、ヴィオラ・チェロ・コントラバスはピツィカート。Lalumia によれば、ここから変ハ長調・ニ長調・変ロ長調と調が移る(m.101・105・109)。m.105木管が p ausdrucksvoll。m.109練習記号 F。ファゴットと低弦が f ausdrucksvoll。m.113全体 ff。m.118静まり、ティンパニのトリル pp(mm.122–126)。m.128rit.。
→ 聴取:チェロの歌がホルンへ、さらに低弦へ受け渡される。同じ旋律が場所を変えるたびに調も変わる。
再現部・コーダ mm.129–247
区分位置調主題内容・聴取ポイント
第1主題 m.129G c moll P チェロが p hervortretend(浮き出て)で歌い、ヴァイオリンとヴィオラは弱音器つき pp。第1オーボエが p zart。m.139練習記号 H。第1ヴァイオリンが G Saite(G線で)p。m.146poco rit.、m.147a tempo、m.148Immer ruhiger。m.151第1ホルンが gedämpft(弱音で)pp。
提示部との差異:コラール風の楽句(提示部 m.25–)は戻らず、第1主題から第2主題へ直接つながる(Lalumia)。
→ 聴取:第1ヴァイオリンの G 線。いちばん低い弦で弾かせ、太く暗い音色を指定している。
第2主題 m.155Etwas langsamer – S ヴィオラが p (ohne Dämpfer) で歌い、弦はピツィカート。m.163練習記号 I、弦 p cresc.。m.171練習記号 K。m.175弦 f。m.187練習記号 L、フルートとオーボエ pp。m.190poco ritard.、金管の和音が保たれる。
→ 聴取:ヴィオラの歌がもう一度。
第1主題による高揚 m.193a tempo – P 第1ヴァイオリンが p sehr ruhig の16分音符で揺れ続け、第1クラリネットと第1ホルンが旋律を持つ。m.197全体 p poco a poco cresc.。m.201練習記号 M、全奏 ff。トランペットとトロンボーンは hervortretend。m.213poco a poco accelerando。m.217a tempo、ff。ヴァイオリンは16分音符で駆ける。m.221練習記号 O、Breit(幅広く)。ティンパニのトリルと三連符で頂点。1888年の浄書譜でブルックナーは mm.195–201 と mm.217–228 を自筆で書き直している(Korstvedt 1996)。
→ 聴取:m.221 の頂点。静かな16分音符のさざ波から、30小節ほどかけて楽章最大の音量まで積み上がる。
コーダ m.228P · molto dim. c moll P 急速に弱まり、ティンパニのリズムが下に残る。m.233ヴァイオリンが (G. Saite) mit grösstem Ausdruck(G線で、最大の表情をこめて)pp。m.237練習記号 Q。弦のフェルマータとティンパニ pp。m.238第1ホルン ausdrucksvoll、m.240 ヴィオラとクラリネット。弦はピツィカート pp で閉じる。
→ 聴取:最後はティンパニの刻みと、ホルン・ヴィオラ・クラリネットの断片。葬送の足どりが遠ざかる。
形式上の特異点
  • 緩徐楽章がソナタ形式で書かれ、しかもコラールが再現されない。提示部には第1主題・コラール風の楽句・第2主題があるが、再現部ではコラールが省かれ、第1主題から第2主題へ直接進む(Lalumia)。
  • 弱音器の出し入れが設計の一部。総譜には「Dämpfer」「ohne Dämpfer」「Dämpfer weg」が細かく書き込まれ、同じ弦楽器群でも旋律を持つパートだけ弱音器を外す(m.51 のヴィオラ、m.155 のヴィオラ)。Hawkshaw は、1888年稿の特徴の一つに弱音器つきの弦の長い区間を挙げる。
  • 1888年稿でのテンポ指定。♩=66 のメトロノーム表示は1888年稿で加わった(Korstvedt 1996)。浄書譜には「Alles fertig 18 Fb. [1]888」と作曲者の書き込みがある(同)。

第3楽章 Scherzo. Bewegt — Trio. Gemächlich

スケルツォ—トリオ—スケルツォ(再現は短縮)
主調:B dur2/4 / Trio 3/4 ♩=126全492小節(通し番号) フルート3本
スケルツォ
mm.1–255
トリオ
mm.256–301
スケルツォ再現
mm.302–492
※ 幅は小節数に比例。小節番号は楽章の頭から通しで数えた本ガイドの実測で、トリオの1番括弧と2番括弧は同じ番号(m.265)で数えた。根拠は出典・底本欄の注を参照。
主要主題
狩りのホルン m.2(上拍)
ホルンが pp で呼びかけ、応え合う。第2ヴァイオリンとヴィオラが変ロ音と F 音で刻むトレモロ(Lalumia)の上で鳴る。m.7 クラリネット、m.10 第3トランペット、m.11 フルートと弦が加わる。2/4 のせわしない刻みと、ホルンの付点の呼び声。
トリオの歌 m.258
フルートとクラリネットが p dolce で歌う素朴なレントラー(田舎風の3拍子の舞曲)。弦はピツィカートと弓で pp の伴奏。変ト長調、3/4、Gemächlich(のんびりと)。
スケルツォ mm.1–255
区分位置調主題内容・聴取ポイント
A 狩りの呼び声 m.1Bewegt ♩=126 B dur A 弦の pp トレモロ、ホルンの呼び交わし。m.19練習記号 A、poco a poco cresc.、ティンパニのトリル。m.28金管のユニゾン ff。m.35練習記号 B、ヴァイオリンに新しい旋律 p ausdrucksvoll。m.51練習記号 C、クラリネットとホルン pp。m.71全奏 ff。m.83トランペットとトロンボーンも加わる。
→ 聴取:遠くの pp から ff まで、ホルンの呼び声が増えていく。
B m.93E · Etwas langsamer Ges dur B m.92 の全休止(フェルマータ)のあと、チェロとコントラバスが pp、m.94 でホルンが ppp。m.97弦が弱音器をつける。m.113練習記号 F。m.121弱音器を外し、m.123 (langsamer)。m.143poco string.(少しせき込んで)。
→ 聴取:全休止のあとテンポが落ち、弱音器の響きに変わる。狩りの場面から、森の奥に入ったような静けさへ。
A′ m.151Erstes Zeitmaas B dur A 最初のテンポに戻り、トレモロとホルンの呼び声が帰ってくる。m.163練習記号 H。m.179練習記号 J、f。m.187ff。m.195練習記号 K、ヴィオラとチェロ p/pp。m.219練習記号 M、弦のスタッカート pp。m.231練習記号 N、トランペットが sehr weich、poco a poco cresc.。m.239練習記号 O、全奏 ff。
→ 聴取:m.239 の全奏。そこから音量が落ちていく。
トリオへの移行 m.251 – – m.251 前後で pp のピツィカートまで弱まり、m.255 は全休止のフェルマータ。ここで調号と拍子が変わる。1878/80年稿ではスケルツォが ff の主和音の終止で閉じていたが、1888年稿は静かな移行でトリオへつなぎ、ff の終止を楽章の最後まで取っておく(Korstvedt 1996)。
→ 聴取:スケルツォが「終わらずに」消える。
トリオ mm.256–301
区分位置調主題内容・聴取ポイント
レントラー m.256Trio. Gemächlich · 3/4 Ges dur T 2小節の弦の pp のあと、m.258 から反復記号の内側でフルートとクラリネットの歌(m.265 が1番括弧・2番括弧)。m.282練習記号 P、フルート2本が pp (zart)。m.284ritard.。m.292管が p、トランペットが pp で加わる。m.301全休止のフェルマータ。
→ 聴取:拍子が2拍子から3拍子に変わる。せわしない狩りから、ゆったり回る舞曲へ。
スケルツォ再現 mm.302–492
区分位置調主題内容・聴取ポイント
A(短縮) m.3021. Zeitmass · 2/4 B dur A スケルツォの冒頭がそのまま戻る(m.312 練習記号 Q、m.320 練習記号 R)。ただしスケルツォの m.26 に当たるところで打ち切られる。
スケルツォとの差異:A の後半(スケルツォ mm.27–92)をまるごと省き、B へ跳ぶ。
→ 聴取:盛り上がりかけたところで、急に B の静かな音楽に切り替わる。
B・A′ m.328Etwas langsamer Ges dur → B A スケルツォの m.93 以降に当たる。m.332 前後で弦が弱音器をつける。m.348練習記号 S。m.367練習記号 T。m.378練習記号 U。m.386練習記号 V、弦のトレモロの和音、第1トランペット pp。m.422練習記号 W、ff。m.446練習記号 X。m.454練習記号 Y。m.466練習記号 Z、トロンボーンが sehr weich pp、ティンパニのトリル、poco a poco cresc.。
→ 聴取:m.466 からの長いクレッシェンド。スケルツォ本体では取っておかれた ff の終止が、ここでようやく来る。
終結 m.473–492 B dur – 全奏 ff で閉じる。
→ 聴取:楽章でただ一度の、主調の強い終止。
形式上の特異点
  • ダ・カーポが書き出され、短くなった。1878/80年稿ではスケルツォをそのまま繰り返すが、1888年稿は再現を書き出して、冒頭の26小節のあと A の後半を省く。Korstvedt 1996 は「65小節の削除」と書く。本ガイドの数えでは、省かれたのはスケルツォ mm.27–92 の66小節になる(m.92 は全休止)。1小節の差は解消できていない。
  • スケルツォの終わりがトリオへ溶ける。スケルツォ本体は ff の終止を持たず、pp と全休止のフェルマータを経てトリオに入る。力強い主和音の終止は楽章の最後に一度だけ来る(Korstvedt 1996)。三部形式の中央に「区切り」を置かない書き方。
  • 数え方で小節数が変わる。Korstvedt 1996 の表1は1888年稿を「255+54+191」と数え、同論文の表3は浄書譜の番号で楽章末を「m.492」とする。スケルツォ255小節は本ガイドの数えと一致する。トリオは括弧を同じ番号にすると46小節で、反復の8小節を書き出して数えれば54小節になる。本ガイドの番号は後者の表に合わせ、通し番号で492とした。スコアで追うときは、手元の版の番号の振り方を先に確かめてほしい(レドリヒ校訂のオイレンブルク版は再現を書き出さず跳び指示で済ませている。Korstvedt 1996。そのため小節番号の振り方も違うはずだが、本ガイドでは確かめていない)。
  • フルートが3本になる。1888年稿はスケルツォと終楽章でフルートを3本にし、終楽章では3番奏者がピッコロに持ち替える(Korstvedt 1996。本ガイドが読んだ初版もこの編成)。

第4楽章 Finale. Mäßig bewegt

ソナタ形式(三つの主題群)
主調:b moll → Es dur¢ / 4/4 𝅗𝅥=72全507小節 ピッコロ・シンバル
提示部
mm.1–202
展開部
mm.203–382
再現部
mm.383–442
コーダ
mm.443–507
※ 幅は小節数に比例。区分・主題群の記号(A・B・C)・調は Korstvedt 1996 の表2(Gutmann 初版の小節番号)による。同表の再現部の見出し「mm.385–476」の終わりの数字は1880年稿の欄と同じで、コーダ開始 m.443 と矛盾するため転記の誤りと見た。開始を m.383 とした(展開部が m.382 で終わるため)のは本ガイドの判断で、表の B1 は m.385 から。
主要主題
A1 導入 m.1
チェロとコントラバスの pp の4分音符の刻み。m.3 から第1ヴァイオリンの ppp トレモロ、第1クラリネットと第1ホルンの pp。変ロ短調で、主調の変ホ長調から離れたところから始まる。
A2 全奏のユニゾン m.43
全奏が ff のユニゾンで打ち出す第1主題。Breit (Hauptzeitmass)、𝅗𝅥=66。変ホ短調(Korstvedt 1996)。(Nicht eilen!)(急ぐな)と念を押される。
B1 第2主題群 m.93
拍子が 4/4 に変わり、Die Viertel wie vorher die Halben(4分音符を前の2分音符の速さで)。弦のピツィカート pp ausdrucksvoll。ハ短調。
C1 第3主題群 m.155
Im Hauptzeitmass、全奏 ff。変ロ短調。m.183 Beruhigend(静まって)で変ト長調の C2 へ。
提示部 mm.1–202
区分位置調主題内容・聴取ポイント
A1 導入 m.1Mäßig bewegt 𝅗𝅥=72 b moll A1 低弦の刻みと ppp のトレモロ。m.27練習記号 A、ティンパニのトリル ppp。m.29「(1s Horn etwas hervortretend)」。トランペットも前に出るよう指示され、ff まで高まる。m.42rit.。
→ 聴取:何かが近づいてくる。40小節かけて、pp の刻みから全奏の爆発を準備する。
A2 第1主題 m.43B · Breit (Hauptzeitmass) es moll A2 全奏のユニゾン ff。m.48(breit)。m.51A3、ニ短調(Korstvedt 1996)。m.55(Nicht eilen!)、pp。m.59練習記号 C、オーボエが p hervortretend。m.63Nach und nach belebend(だんだん活気づいて)。m.73練習記号 D、a tempo etwas gedehnt(少し引き延ばして)、ppp。
→ 聴取:全奏のユニゾンが変ホ短調で来る。変ホ長調の交響曲の終楽章が、同主短調の主題で始まる。
頂点 → A4 m.76Belebt Es dur A4 ピッコロ ff、シンバルが f の一打(ausklingen lassen=余韻を残して)。Korstvedt 1996 は m.76 を「終楽章序盤の頂点」と呼ぶ。m.78rit.。m.79A4(Korstvedt 1996 の区分はここから)。Belebt (doch etwas breit)、ff marcato、ホルンは stark hervortreten。変ホ長調(同)。m.89rit.。m.92フェルマータ lang。
→ 聴取:m.76 のシンバル。1888年稿で加わった一打で、この楽章に3回しか鳴らない。
B1 第2主題群 m.934/4 · Die Viertel wie vorher die Halben c moll B1 弦のピツィカート pp ausdrucksvoll。m.103前後に Ein wenig zurückhaltend(少し抑えて)。m.105B2 Belebter、ハ短調からヘ長調へ(Korstvedt 1996)。m.109Noch etwas belebter。m.113練習記号 E。m.128rit.。m.129Etwas gemächlich、m.131Nach und nach etwas belebend。
→ 聴取:テンポ標語が数小節ごとに変わる。1888年稿の終楽章は、速さを細かく揺らす指示に満ちている。
Bx m.143a tempo Ges dur → Bx m.139 練習記号 F で a tempo、m.142 rit. を経て m.143 再び a tempo。m.147第3・第4ホルンが gestopft(ゲシュトップ)pp。m.153rit.。
→ 聴取:ゲシュトップのホルン。手で朝顔をふさいだ、こもった金属的な音。
C 第3主題群 m.155G · Im Hauptzeitmass b moll C1 全奏 ff(拍子は 4/4 のまま)。1888年稿は mm.155–182 の金管を軽くしている(Korstvedt 1996)。m.179練習記号 H、ピッコロのトリル ff。m.183Beruhigend、変ト長調の C2。弦が p ausdrucksvoll。m.193C3′ Immer ruhiger、変ト長調から変ロへ。
→ 聴取:全奏の嵐から、m.183 で急に静まる。
展開部 mm.203–382
区分位置調主題内容・聴取ポイント
A1 m.203Zeitmass wie zu Anfang b moll A1 複縦線、¢ に戻る。弦の ppp ピツィカートの刻み、m.207 から第1ヴァイオリンのトレモロ。楽章冒頭と同じ導入の空気。m.229練習記号 I。m.232un poco rit.。
→ 聴取:楽章の冒頭に戻ったように聞こえる。ここから展開部。
B2 m.237a tempo Ges → E B2 ホルン2本が ff sehr ausdrucksvoll、トロンボーンとチューバ f。m.245弦 ff。m.253練習記号 K。m.268rit.。
→ 聴取:ホルンが歌の主役になる。
B1 m.2694/4 · Viertel wie früher die Halben f moll B1 浄書譜ではブルックナーが元の Langsam をこの標語に書き換えた(Korstvedt 1996)。m.283練習記号 L。m.292molto rit.。m.294休符のフェルマータのあと、ff の三連符の上拍。
→ 聴取:フェルマータの沈黙から全奏が飛び出す。
A2/C m.295Im Hauptzeitmass (c) → A2 C 全奏 ff、トランペットは f sehr gehalten。m.305In heftiger Steigerung(激しく高まって)。m.309a tempo。m.322練習記号 M、Breit。m.323a tempo、全奏 ff。m.329fff。m.337練習記号 N、弦 dim. molto。1888年稿は mm.321–336 の金管を軽くしている(Korstvedt 1996)。
→ 聴取:展開部の頂点(m.329 の fff)。第1主題(A2)と第3主題群(C)の素材が重なる。
Bx/C m.341a tempo D Bx m.339 molto rit. のあとの a tempo。m.343 rit.、m.345 a tempo(ティンパニのトリル ppp、ファゴット ppp)。m.349 rit.、m.352 フェルマータ。
→ 聴取:止まりかけては動き出す。
A2 反行形 m.353Hauptzeitmass (etwas gedehnt) (d) A2 第1主題を上下反転した形(Korstvedt 1996 の「A2 inv.」)。ホルンが ppp の三連符の刻みを so zart als möglich(できるかぎり柔らかく)、第1ヴァイオリンは弱音器をつけてフルートと重なる(mm.360–366 の弱音器は1888年稿で追加。Korstvedt 1996)。m.359練習記号 O。m.368(Schnell belebend.)、弦が弱音器を外す。
→ 聴取:全奏で叩きつけた主題が、ささやきになって戻る。
再現部・コーダ mm.383–507
区分位置調主題内容・聴取ポイント
B1(第2主題群から再現) m.3854/4 · Viertel wie vorher die Halben d moll B1 m.384 の複縦線で 4/4 に変わる。m.393練習記号 P。m.395(ein wenig zurückhaltend)。m.397B2 (etwas belebter)、ニ長調へ(Korstvedt 1996)。m.411練習記号 Q。m.422rit.、m.423練習記号 R・a tempo。m.427Etwas belebend。
提示部との差異:第1主題(A2)の大全奏を置かず、第2主題群から再現する。1878/80年稿(嬰ヘ短調)より短く、ニ短調に移された(Korstvedt 1996)。
→ 聴取:再現部なのに第1主題が戻らない。ピツィカートの第2主題群がいきなり来る。
Bx/C m.431Ruhig ces moll Bx 複縦線で ¢ に戻る。クラリネット・ホルン・ティンパニ pp、ヴィオラが hervortretend。m.437Sehr zurückhaltend。
→ 聴取:内声のヴィオラ。コーダ直前の静けさ。
コーダ m.443 es moll → Es dur A2 A4 第2ヴァイオリンとヴィオラの三連符のトレモロが刻み続け、ティンパニのトリルが重なる。浄書譜ではこの小節の Im Hauptzeitmass が Sehr langsam に書き換えられている(Korstvedt 1996)。m.455練習記号 S、管が pp sehr ruhig。m.471A2(変ホ短調)。m.473シンバル pp、トランペット2本が p zart doch sehr bestimmt und feierlich(柔らかく、しかしきっぱりと厳かに)で三連符のファンファーレ。m.477シンバル pp、もう一打。m.491弦 mf cresc.。m.495練習記号 U。m.499A4、ff stark aushalten、ホルンは schmetternd(高らかに)、ピッコロ ff。変ホ長調(Korstvedt 1996)。m.500 からホルン4本がオクターヴで、5度跳ね上がって戻る音型を毎小節くり返す。m.507 の fff で閉じる。
→ 聴取:m.473 と m.477 の、ささやくようなシンバル。ここから30小節あまりかけて、短調の霧が変ホ長調の光に変わる。
形式上の特異点
  • 再現部が第2主題群から始まる。1878/80年稿の再現部冒頭にあった第1主題(A2)の大全奏(mm.383–412)を、1888年稿は削った。続く第2主題群の再現も少し縮め、嬰ヘ短調からニ短調に移した(Korstvedt 1996)。第1主題(A2)は、コーダ(m.443 と m.471、変ホ短調)でようやく戻る。
  • 終楽章で507小節。1880年稿の終楽章は541小節で、1888年稿は34小節短い(Korstvedt 1996)。提示部(mm.1–202)の小節番号は1880年稿と同じで、展開部の終わり(m.382)も揃う(途中で2小節のずれがある)。短くなったのは再現部である(同)。
  • シンバルは3打だけ。m.76 の f の一打と、コーダの m.473・m.477 の pp の二打。どれも1888年稿で加わった(Korstvedt 1996)。レドリヒ(1954年の校訂版序文)は m.76 のピッコロとシンバル、m.473 の pp のシンバルをブルックナー本来の様式にないものとして挙げた(英語版 Wikipedia による)。Korstvedt 1996 は、浄書譜と初演パートの照合から作曲者の承認を論じている。
  • 4/4 と ¢ の往復。第2主題群に入るたびに拍子を 4/4 に変え、「4分音符を前の2分音符の速さで」と指示する(m.93、269、385)。拍の刻みは細かくなるが、テンポそのものは保たれる。
  • コーダは作曲者が書き直した。1888年の浄書譜で、ブルックナーは mm.479–507 を自筆で書き直し、mm.491–494 にオーボエ・クラリネット・ファゴット・トロンボーン・チューバを足している(Korstvedt 1996)。

参考文献

  • Benjamin M. Korstvedt, "The First Published Edition of Anton Bruckner's Fourth Symphony: Collaboration and Authenticity", 19th-Century Music 20/1 (1996): 3–26(査読誌。abruckner.com 所収の PDF)— 1888年稿の小節数(表1)、終楽章の区分と調(表2)、浄書譜への作曲者の書き込み(表3)、初演パートとの照合。本ガイドの骨格。
  • Joseph Lalumia, Anton Bruckner's Symphony No. 4 in E-flat Major: A Motivic Analysis(イーストマン音楽学校・修士論文・1978。abruckner.com 所収)— 第1〜第3楽章の区分・主題・調。1878/80年稿(ノヴァーク版1953)の小節番号による。Gutmann 初版を真正でないとする立場をとる(pp.3–5)。
  • Paul Hawkshaw, 解説(Capriccio C8085、マルクス・ポシュナー指揮ウィーン放送交響楽団、1888年稿。レーベルの解説書。PDF)— 1888年稿の特徴(弱音器、スケルツォ再現の短縮)。写譜者の分担(第1・第4楽章をレーヴェ、第2楽章をヨーゼフ・シャルク、第3楽章をフランツ・シャルク)は Korstvedt 1996 の推定とおおむね合うが、本ガイドでは使っていない。
  • Deryck Cooke, "The Bruckner Problem Simplified", in Vindications: Essays on Romantic Music(Faber, 1982)および The New Grove(1980)の「Bruckner」項 — 初版を真正でないとする通説側の代表的な論。本ガイドは原本を参照しておらず、Korstvedt 1996 の脚注2による。
  • "Symphony No. 4 (Bruckner)", 英語版 Wikipedia(百科事典)— 稿と版の受容史(ハース、ノヴァーク、レドリヒ)の整理。
  • 参照録音:オスモ・ヴァンスカ指揮ミネソタ管弦楽団(BIS-SACD-1746、コーストヴェット版)。楽章の長さは Qobuz の配信ページによる。コーストヴェット版の世界初演と初録音は2005年7月5日、内藤彰指揮東京ニューシティ管弦楽団(Delta DCCA-0017。HMV の商品ページによる)。
  • 楽譜(底本):Anton Bruckner, Vierte (romantische) Symphonie, Partitur, Wien: Albert J. Gutmann, 1889(図版番号 A.J.G. 710、Leipzig: Engelmann & Mühlberg 刻版。IMSLP #562137、1890年以降の刷り)。スキャンには旧蔵者の鉛筆の小節番号がある。
  • 校訂版(未参照):Anton Bruckner, IV. Symphonie Es-Dur, Fassung von 1888, hrsg. von Benjamin M. Korstvedt, Anton Bruckner Sämtliche Werke IV/3, Wien: Musikwissenschaftlicher Verlag, 2004。
第1版 | 初版 2026-09-27 | 最終改訂 2026-09-27