マーラー:交響曲第2番 ハ短調「復活」
Gustav Mahler, Symphony No. 2 in C minor(1888–94)
ハ短調の葬礼に始まり、舞台裏の呼び声と無伴奏の合唱を経て変ホ長調の全合唱で閉じる。区分・位置はラッツ校訂版の版面で実測。
対象:作品全体(1970年ラッツ校訂の旧全集版に拠る。2010年新批判版は未照合)
出典・底本
主な分析ソース:本ガイドは小節単位の公刊分析を参照していない。区分・位置・調号・テンポ標語は、すべて本ガイドが総譜の版面から実測した。成立と初演の日付、テキストの出所、第3楽章と歌曲《魚に説教するパドヴァの聖アントニウス》の関係は Wikipedia 英語版「Symphony No. 2 (Mahler)」(百科事典。二次資料)による。2010年の新校訂版については、出版社 Universal Edition の商品ページと、同社の米国代理店 European American Music の告知記事(出版社側の宣伝文)による。位置の準拠:本ガイド実測。底本は Kritische Gesamtausgabe 第II巻(国際グスタフ・マーラー協会編、エルヴィン・ラッツ校訂、Universal Edition、校訂報告 © 1970)。IMSLP #211806(IMSLP の表記は「U.E. 13821 (with corrections)」。版面の図版番号は冒頭頁が U.E. 13821、以降は U.E. 2933、p.25 だけ U.E. 2930)。このファイルは IMSLP-EU(ドイツのサーバー)に置かれ、EU 圏向けの公開である。この版は各段の頭に小節番号を刷るので、本ガイドは全209頁を段ごとに通し、前の段から数えた小節数が次の段の刷られた番号にすべて一致することを確かめた(食い違いゼロ)。区分の開始位置は、刷られた番号から数えて求めた。練習番号(太字の数字)は全曲通しで振られ、第1楽章 1–27、第2楽章 1–15、第3楽章 28–55、第4楽章 1–6、第5楽章 1–51(第2・第4楽章は振り直し)。各楽章の総小節数は 445/299/581/68/764で、第1・第2・第3・第5楽章は楽章末に刷られた番号、第4楽章は本ガイドの計数による。第2楽章冒頭の1拍の弱起は数えない(版面の番号もそう振られている)。調号は弦・フルート・オーボエの段で読んだ。主題の音名は、読めたものだけを書いた(小さなスキャンからの読みなので確度は中程度)。
Hofmeister の初版(1897。IMSLP #415748)もダウンロードしたが、本ガイドは初版と底本を照合していない。2010年の新校訂版(ギルバート・キャプラン、レナーテ・シュタルク=フォイト校訂、UE 33882)も参照していない。上記の告知記事は、新版が出た理由を「楽器法の実質的な変更でも、小節の欠落や余剰でもなく」旧版の版面では直せなかった多数の誤りにある、と説明している。そうであれば小節番号は新版とも合うはずだが、本ガイドは新版の版面で確かめていない。本文の音名・強弱・奏法指示・舞台裏の配置指示・脚注の文言は、すべて1970年のラッツ版に拠る記述で、新版で改められている可能性がある(どれが該当するかは、新版と校訂報告を見ないと特定できない)。
参照録音:オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団・合唱団、エリーザベト・シュヴァルツコップ(ソプラノ)、ヒルデ・レッスル=マイダン(アルト)。EMI(現 Warner Classics)。1961年11月・1962年3月、ロンドンのキングズウェイ・ホール録音(録音日はレコード目録サイト Discogs 掲載の盤情報による)。区分ごとの時間目安(≈mm:ss)は付けていない。録音未計測のため。推測の時間は書かない。
区分名(提示部・展開部、スケルツォ・トリオ等)は本ガイドの読みで、典拠のある呼び名ではない。テンポ標語・奏法指示・脚注の文言は版面から写した。
全5楽章の俯瞰
| 楽章 | 形式 | 主調 | 拍子 | 形式上の変型 | 聴きどころ |
|---|---|---|---|---|---|
| I. Allegro maestoso | ソナタ形式(本ガイドの読み) | ハ短調 | 4/4(全445小節) | 提示部がすぐ「Wie zu Anfang(初めのように)」で頭から形を変えてやり直す。展開部が212小節と全体の半分近くを占め、再現部は63小節と短い | 弦のトレモロの下から、低弦が荒々しく駆け上がって始まる。やがてホ長調の静かな第2主題が差し込む。終わりは下降する半音階の一撃と、ピッツィカートの短い音。 |
| II. Andante moderato | A–B–A′–B′–A″(本ガイドの読み) | 変イ長調 | 3/8(弱起+全299小節) | 中間部(嬰ト短調)が2度来て、2度目は激しくなる。最後の A″ は弦のピッツィカートで始まる | ゆったりした3拍子の舞曲(レントラー)。1楽章の葬送のあとで、急に昔の思い出の中へ入ったような穏やかさ。 |
| III. In ruhig fließender Bewegung | スケルツォ(トリオ2つ、終盤に破局。本ガイドの読み) | ハ短調 | 3/8(全581小節) | 途中で全管弦楽が fff の叫びに達し(m.465)、そのあと崩れてから元の流れに戻る | ティンパニの短い打撃で始まり、ヴァイオリンが16分音符で途切れなく流れ続ける。歌曲《魚に説教するパドヴァの聖アントニウス》の器楽版。 |
| IV. „Urlicht“ Sehr feierlich, aber schlicht | 通作の歌曲(アルト独唱) | 変ニ長調 | 4/4 基調で2/4〜6/4が混じる(全68小節) | 中ほどでイ長調へ移り、最後に冒頭のテンポと調へ帰る | アルトが静かに「O Röschen roth!」と歌い出し、金管の小さなコラールが続く。4分ほどの短い祈り。 |
| V. Im Tempo des Scherzo | 二部構成(器楽の前半+独唱・合唱の後半)。前半はソナタの原理にゆるやかに従うとする見方がある(Wikipedia 英語版) | 調号♭4 → 変ホ長調 | 3/8 で始まり 4/4・¢・2/2 など多数 | 舞台裏(in der Ferne)の金管・打楽器が3つの局面で出る(m.43〜、m.343〜、m.448〜)。合唱は m.472 で無伴奏の ppp として初めて入る | 冒頭の叫び、遠くのホルン、長い行進、静まり返ったあとの鳥の声、そして合唱の「Aufersteh'n」。最後はオルガンと鐘を加えた全合奏で変ホ長調に着く。 |
楽章のつながり:第1楽章の終わりに「Hier folgt eine Pause von mindestens 5 Minuten.(ここで少なくとも5分の休止をとる)」と刷られている(底本 p.56)。第3楽章の終わりには「Folgt ohne jede Unterbrechung der 4. Satz.(切れ目なく第4楽章へ)」、第4楽章の冒頭に「attacca」、終わりに「folgt ohne jede Unterbrechung der 5 Satz」、第5楽章の冒頭に「attacca: 5. Satz」。第3〜第5楽章は切れ目なしで続けるよう指示されている。
成立:第1楽章は1888年に書かれた。この1888年稿は1988年に「Totenfeier/大管弦楽のための交響詩」の題で出版され、単独の交響詩として書かれたという説明が広く流布している(Wikipedia 英語版もそう書く)。これに対しポール・バンクス(Paul Banks)は、マーラーが「Totenfeier」という題を思いついたのは1891年になってからで、この楽章を単一楽章の交響詩と考えていたという証拠は「very unreliable(きわめて当てにならない)」と指摘した。その後見つかった1891年の書簡を根拠に、交響詩として構想されたこと自体が「very doubtful」だとも結論している(Mahler Catalogue の論考。研究者が運営する作品目録サイト。もとは Musical Times 1988年の書評)。本ガイドは、当初から交響詩だったかどうかを争点として扱う。以下は Wikipedia 英語版による。第2・第3楽章は1893年、終楽章は1894年に完成した。終楽章の合唱は、1894年のハンス・フォン・ビューローの葬儀で聴いたクロプシュトックの詩「復活(Die Auferstehung)」の合唱曲がきっかけとされる。マーラーは詩の最初の8行だけを使い、「O glaube」以降は自分で書いた。第4楽章の詩は民謡詩集『子供の魔法の角笛』から採られている(底本の見出しにも「aus „des Knaben Wunderhorn“」とある)。第1〜第3楽章だけの初演は1895年3月4日、全曲の初演は同年12月13日、いずれもベルリンで作曲者の指揮(全曲初演の日付は底本の扉裏にも刷られている)。初版は1897年、ライプツィヒの Hofmeister から出た。
編成(底本 p.3 の一覧から):フルート4(ピッコロ持ち替え)、オーボエ4(イングリッシュホルン持ち替え)、クラリネット3(バスクラリネット持ち替え)と小クラリネット2、ファゴット4(コントラファゴット持ち替え)、ホルン6と舞台裏のホルン4、トランペット6と舞台裏のトランペット4、トロンボーン4、テューバ、オルガン、ハープ2、ティンパニ(奏者2、のち3)と多数の打楽器(深い音の鐘、タムタム2種、ルーテ等)、弦、ソプラノ・アルト独唱、混声合唱。「In der Ferne」と記された楽器はすべて第5楽章にしか出ない(同じ一覧の注記)。
成立:第1楽章は1888年に書かれた。この1888年稿は1988年に「Totenfeier/大管弦楽のための交響詩」の題で出版され、単独の交響詩として書かれたという説明が広く流布している(Wikipedia 英語版もそう書く)。これに対しポール・バンクス(Paul Banks)は、マーラーが「Totenfeier」という題を思いついたのは1891年になってからで、この楽章を単一楽章の交響詩と考えていたという証拠は「very unreliable(きわめて当てにならない)」と指摘した。その後見つかった1891年の書簡を根拠に、交響詩として構想されたこと自体が「very doubtful」だとも結論している(Mahler Catalogue の論考。研究者が運営する作品目録サイト。もとは Musical Times 1988年の書評)。本ガイドは、当初から交響詩だったかどうかを争点として扱う。以下は Wikipedia 英語版による。第2・第3楽章は1893年、終楽章は1894年に完成した。終楽章の合唱は、1894年のハンス・フォン・ビューローの葬儀で聴いたクロプシュトックの詩「復活(Die Auferstehung)」の合唱曲がきっかけとされる。マーラーは詩の最初の8行だけを使い、「O glaube」以降は自分で書いた。第4楽章の詩は民謡詩集『子供の魔法の角笛』から採られている(底本の見出しにも「aus „des Knaben Wunderhorn“」とある)。第1〜第3楽章だけの初演は1895年3月4日、全曲の初演は同年12月13日、いずれもベルリンで作曲者の指揮(全曲初演の日付は底本の扉裏にも刷られている)。初版は1897年、ライプツィヒの Hofmeister から出た。
編成(底本 p.3 の一覧から):フルート4(ピッコロ持ち替え)、オーボエ4(イングリッシュホルン持ち替え)、クラリネット3(バスクラリネット持ち替え)と小クラリネット2、ファゴット4(コントラファゴット持ち替え)、ホルン6と舞台裏のホルン4、トランペット6と舞台裏のトランペット4、トロンボーン4、テューバ、オルガン、ハープ2、ティンパニ(奏者2、のち3)と多数の打楽器(深い音の鐘、タムタム2種、ルーテ等)、弦、ソプラノ・アルト独唱、混声合唱。「In der Ferne」と記された楽器はすべて第5楽章にしか出ない(同じ一覧の注記)。
第1楽章 Allegro maestoso
ソナタ形式(本ガイドの読み)
提示部
1–63
1–63
提示部の変形反復
64–116
64–116
展開部
117–328
117–328
再現部
329–391
329–391
コーダ
392–445
392–445
※ 幅は小節数に比例。区分は本ガイドの読み。調号は m.117 で ♭3→なし、m.129 で ♯1、m.254 で ♭6、m.329 で ♭3 に戻る(弦・フルートの段で確認)。
主要主題
第1主題 m.1–2
ヴァイオリンが G を ff のトレモロで鳴らし、すぐ p に落とす。その下でチェロとコントラバスが「wild」fff で16分音符の上行音型を叩きつけ、休符で止まる。脚注は、この低音の音型を♩=144 ほどの「激しい突進で」速く、休符は主テンポ♩=84–92 で、と指示する。m.4 のフェルマータは「短く、新たな力のための振りかぶり」。
木管の嘆き m.18
オーボエ2本とイングリッシュホルンが p で入り、ホルンの弱音器つき(gestopft)の和音が支える。低弦の3連音の刻みがずっと下で続く。
第2主題 m.48(練習番号3)
「Im Tempo nachgeben(テンポをゆるめて)」。第1ヴァイオリンが pp「lang gezogen(長く引き伸ばして)」で、B から E–F♯–G♯ と上がって歌い出す。ホ長調(調号は♭3のまま臨時記号で書かれる)。下では低弦が第1主題の3連音の刻みを続け、ティンパニが ppp でトリルを保つ。音名は版面の読みで、確度は中程度。
| 区分 | 位置 | 調 | 主題 | 内容・聴取ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 第1主題群 | mm.1–47練習番号1=25/2=43 | c moll | P | 「Allegro maestoso. Mit durchaus ernstem und feierlichem Ausdruck(終始まじめで荘重な表情で)」。m.18 から木管の嘆き、m.25 からヴァイオリンの旋律。m.41 で全合奏が fff に達し、トランペットは「Schalltrichter in die Höhe(朝顔を上に向けて)」。m.43 から鎮まる。 → 聴取:低弦の突進と、そのあとの沈黙。激しい音型のたびに休符で止まる、その止まり方が楽章の顔になる。 |
| 第2主題 | mm.48–63練習番号3 | E dur | S | 弦が pp で歌い、クラリネットが「Echoton(こだまの音)」で応える。m.59 から ff に膨らみ、m.62 で fff。 → 聴取:ハ短調から長3度上のホ長調へ、突然明るい光が差す。ただし下で低弦の3連音が止まらないので、葬送の足取りは消えていない。 |
| 区分 | 位置 | 調 | 主題 | 内容・聴取ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 冒頭の回帰 | mm.64–96練習番号4=64/5=74 | c moll | P | 「Wie zu Anfang(初めのように)」。低弦が fff で冒頭の音型を再び叩き、m.65「Vorwärts / Più mosso subito」、m.67「a tempo (poco più mosso)」。m.87「Pesante」、m.89 で fff。 → 聴取:提示部が一巡したところで、もう一度冒頭の突進が来る。古典派の提示部反復の代わりに、形を変えてやり直している、と本ガイドは読む。 |
| 鎮静 | mm.97–116練習番号6=97 | — | 「Beruhigend(静めながら)」。ハープが初めて入り、低いタムタムが pp。m.104「Zurückhaltend」でオーボエが旋律を吹く。m.110 の版面の注記は、ここまでの自然な減速で「テンポはすでにかなりゆるやかになっている」と書く。 → 聴取:ハープとタムタムの暗い響きの中で、音楽がほとんど止まるところまで沈む。 |
| 区分 | 位置 | 調 | 主題 | 内容・聴取ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 第2主題の田園 | mm.117–163練習番号7=117/8=129/9=143 | C dur→調号♯1 | S | 「Sehr mässig und zurückhaltend」。弦が ppp「lang gestrichen」で第2主題をハ長調で弾き、m.119 からホルンが pp で旋律を重ねる。m.129 で調号が♯1になり、イングリッシュホルンの旋律。m.135「Noch etwas langsamer」。 → 聴取:展開部が嵐ではなく、いちばん静かな場面から始まる。クラリネットの「こだま」とハープが遠景をつくる。 |
| 主テンポへの復帰と高まり | mm.164–243練習番号10=164/11=179/12=196/13=208/14=226 | — | P | m.163–164「Von hier allmählich und unmerklich zu Tempo I. zurückkehren」、m.179「Tempo I.」、m.196「Vorwärts」で fff。m.208「Etwas drängend」でフルートとハープ、m.216 で独奏ヴァイオリンが楽章で初めて入る。m.227「Immer bewegter」、m.235「Immer noch etwas vorwärts」。 → 聴取:テンポが気づかないうちに戻り、さらに速くなっていく。指示の文言どおり「unmerklich(それと分からずに)」が効いている。 |
| 崩落 | mm.244–253練習番号15 | — | 「Schnell」。弦が G 線で fff の走句を加速させ、2種のタムタムが鳴る。m.248 で弦は「am Steg(駒の近くで)」、m.252「bis zur Unhörbarkeit abnehmen(聞こえなくなるまで弱める)」。区切りのフェルマータ。 → 聴取:一気に駆け下りて、無音に落ちる。 |
|
| 変ホ短調の場面 | mm.254–290練習番号16=254/17=278 | es moll | 「Sehr langsam beginnend」。チェロとコントラバスの半数が付点のリズムで pp の刻みを始め、m.258 でイングリッシュホルンの独奏。m.262 で第1トランペットと第1トロンボーンが「sehr getragen(きわめて荘重に、音を十分保って)」の長い音符の旋律を重ねる。同じ小節に「ここから気づかれないように、少しずつ引き締まったテンポへ」。m.270 でホルンが「sehr bestimmt」。m.278 の注記は、テンポはすでに「Energisch bewegt」になっている、さらに上げよ、と書く。 → 聴取:低弦の刻みの上に、金管の荘重なコラール風の旋律が乗る。そこからテンポと音量が段階的に上がっていく。 |
|
| 頂点 | mm.291–328練習番号18=291/19=300/20=325 | — | P | m.290「Molto riten.」、脚注「„CÄSUR“ und hierauf plötzlich vorwärts!(区切りを置いて、そこから急に前へ)」。m.291「a tempo subito / Molto più mosso」で fff。m.300「a tempo subito, aber wuchtiger」、m.304「Nicht eilen」で弦に「mit dem Bogen geschlagen(弓で弦を打つ)」、ハープ2台が fff。指揮者ハルトムート・ヘンヒェンは、マーラーがこの指示を「col legno」「mit dem Holze gestrichen」と書き分けていることを指摘する。この指示は弓の毛が弦に当たる打弦で、木部を使う奏法より雑音が少ない、という説明で、例にこの m.304 を挙げている。m.325「Molto pesante」で弦がピッツィカート fff、m.328「Rit.」。 → 聴取:弦が弓で弦を打ちつける、弾くのとも擦るのとも違う音と、m.325 の重いピッツィカート。そのまま再現部へ落ちる。 |
| 区分 | 位置 | 調 | 主題 | 内容・聴取ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 第1主題の再現 | mm.329–361練習番号21=336/22=353 | c moll | P | 「Tempo I.」。調号が♭3に戻り、全合奏の fff の打撃で始まる。m.357 からチェロとコントラバスの3連音の動機が1小節ごとに弱まっていく(fff→ppp)。 → 聴取:展開部の頂点から切れ目なく冒頭の世界に戻る。冒頭のような沈黙はない。提示部との差:冒頭の「低弦の突進→沈黙」の反復がなく、全合奏の一撃から入る。 |
| 第2主題の再現 | mm.362–391練習番号23=372 | E dur | S | 「Zurückhalten」。第1ヴァイオリンが弱音器つき「lang gezogen」で、提示部と同じホ長調の第2主題を弾く(調号は♭3のまま)。ハープとトランペット。m.372「Immer noch mehr zurückhaltend」でヴァイオリンが「molto espress.」、m.384「Immer langsamer」でホルンが「完全に消えるまで」弱まる。 → 聴取:第2主題はハ長調やハ短調に移されず、提示部と同じホ長調で戻る。ソナタ形式の「主調で再現する」決まりに従わない。提示部との差:調は同じだが、弱音器と遅いテンポで、ずっと遠くに聞こえる。 |
| 区分 | 位置 | 調 | 主題 | 内容・聴取ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 葬送の足取り | mm.392–440練習番号24=392/25=404/26=420 | c moll | P | 「Tempo sostenuto」。ハープ2台のユニゾンと、弱音器つきのチェロ・コントラバスのユニゾンが「schwer(重く)」pppp で3連音の音型を刻む。m.394 でホルン6本が「schwer」ppp、低いタムタム。m.399 で第1トランペットと第1トロンボーンの旋律。m.418 で全合奏 ff。m.427「Nicht schleppen」。 → 聴取:ハープと低弦が一緒に刻む重い歩み。冒頭の低弦の音型が、ここでは遅い行進の足取りになっている。 |
| 最後の一撃 | mm.441–445練習番号27 | c moll | 「Tempo I」。全合奏が ff で3連音の半音階を一気に駆け下り、m.443「riten.」。m.444 で弦が pizz. mf、m.445 で pizz. pp と大太鼓 ppp で終わる。 → 聴取:急降下のあと、ピッツィカートの小さな音が2つ。そのまま5分以上の休止に入る。 |
別の見立て:提示部の変形反復を長くとると
Wikipedia 英語版は、この楽章を「変形されたソナタ形式」とし、提示部が練習番号4から15まで変形して繰り返される(ベートーヴェン後期の弦楽四重奏にならって)と書く。練習番号4は m.64、15は m.244 なので、この読みでは本ガイドが展開部の前半とした mm.117–243(第2主題の田園〜主テンポへの復帰)も提示部の反復に含まれ、展開部は m.244 前後から始まることになる。同じ記事は展開部に、のちの楽章で使われる「怒りの日(Dies irae)」に基づく主題が現れるとするが、どの箇所かは書いておらず、本ガイドも特定していない。区分の数字は本ガイドが練習番号から換算した。
本ガイド
提示部 1–63/変形反復 64–116/展開部 117–328/再現部 329–/コーダ 392–Wikipedia 英語版
提示部 1–63/変形反復 64–243(練習番号4–15)/展開部 244 前後–/再現部・コーダの位置は記載なし形式上の特異点
- 終わりに刷られた「5分以上の休止」。底本 p.56 の最後の段の下に「Hier folgt eine Pause von mindestens 5 Minuten.」とある。Wikipedia 英語版は、ユリウス・ブーツがこの休止を第4楽章と第5楽章の間に移し、マーラーがそれを認めたと伝える。本ガイドはその書簡の原文を確認していない。底本では第4楽章から第5楽章へは「ohne jede Unterbrechung(まったく切れ目なく)」と指示されているので、演奏会でどこに間を置くかは指示と慣行がずれやすい箇所である。
- 提示部を反復せず、形を変えてやり直す。m.64 に「Wie zu Anfang(初めのように)」とあって冒頭の低弦が戻るが、繰り返し記号による反復ではない。後半は m.97 以降で別の響き(ハープ、タムタム)へ進む。これを提示部の変形反復と見るのは本ガイドの読み。
- 第2主題がホ長調のまま再現される。提示部でも再現部でも、ハ短調の楽章の中でホ長調(主調から長3度上)に置かれ、主調へ移されない。
- 展開部が全体の半分近い。212小節(mm.117–328)に対し、再現部は63小節。展開部はいちばん静かな場面から始まり、いったん無音に落ちて(m.253)、変ホ短調から改めて頂点を築く。
- 版面の指示が多い。「Anmerkung für den Dirigenten(指揮者への注)」が繰り返し刷られ、テンポの変え方(m.110、m.262、m.278)、フェルマータの長さ(m.4)、区切り(m.290)まで文章で指定している。
第2楽章 Andante moderato
A–B–A′–B′–A″(本ガイドの読み)
A
1–38
1–38
B
39–85
39–85
A′
86–132
86–132
B′
133–209
133–209
A″
210–299
210–299
※ 幅は小節数に比例。調号は ♭4 → m.39 ♯5 → m.86 ♭4 → m.133 ♯5 → m.210 ♭4(弦の段で確認)。
主要主題
レントラー主題 弱起–m.10
第1ヴァイオリンが「grazioso, sempre p」で、弱起の E♭ から入り、E♭–C–A♭ のあたりを16分音符と8分音符の組み合わせで揺れながら下りる。3/8 のゆっくりした舞曲。冒頭の指示は「Sehr gemächlich. Nie eilen.(とてもくつろいで。決して急がずに)」、脚注に「アクセントはすべて一貫して」。音名は版面の読み。
チェロの対旋律 m.12/m.21
チェロが「pp espress.」で主題の下に長い歌を加える。A′(m.92–)では弱音器を外して「p molto espress.」になり、主題よりも目立つ。
中間部の3連音 m.39
第1ヴァイオリンの最初の3プルトだけが「sempre ppp」で3連の16分音符を途切れなく回し、ホルンが8分音符の同音を刻む。嬰ト短調(調号♯5)。m.48 から弦全体が「spring. Bog.(跳ねる弓)」に加わる。
| 区分 | 位置 | 調 | 主題 | 内容・聴取ポイント |
|---|---|---|---|---|
| レントラー | 弱起–m.38練習番号1=弱起/2=21 | As dur | A | 弦だけで始まり、m.12 からチェロの対旋律、m.21 でチェロ(テノール記号)がさらに歌う。m.30 でフルート。 → 聴取:第1楽章から一転した、軽い3拍子。アクセントの位置が毎回そろっているかで、弾き手の気配りが分かる。 |
| 区分 | 位置 | 調 | 主題 | 内容・聴取ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 中間部 | mm.39–85練習番号3=39/4=64 | gis moll | B | 「Nicht eilen. Sehr gemächlich.」。3連音の流れ。m.44 でハープとフルート、m.64 でクラリネット(B管と Es管)が「p dolce」で旋律。m.75「Etwas drängend」、m.82「Etwas zurückhaltend」。 → 聴取:拍子は3/8のままなのに、3連音で細かく回り出す。影が差すが、まだ静か。 |
| 区分 | 位置 | 調 | 主題 | 内容・聴取ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 主題の回帰 | mm.86–132練習番号5=86 | As dur | A | m.86「In Tempo I. zurückkehren」で調号が♭4に戻り、m.93「Tempo I. Ja nicht eilen!(決して急ぐな)」で第1ヴァイオリンが弱音器つき ppp の主題、その下でチェロが弱音器を外した「p molto espress.」の対旋律。m.125「Im Tempo nachlassen」で低音が「gänzlich ersterbend(すっかり消え入って)」。 → 聴取:主題よりもチェロの歌のほうが前に出る。A との差:主題に弱音器、チェロの対旋律が主役。 |
| 区分 | 位置 | 調 | 主題 | 内容・聴取ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 荒れる中間部 | mm.133–209練習番号6=133/9=175/11=196 | gis moll | B | m.132「Tempo I.」でファゴット ff、弦が G 線 fff。m.133「Energisch bewegt」でホルン ff。m.142「Holzinstrumente sehr hervortretend」。m.175 で第1ヴァイオリンが指板の上で「singend」、m.183「Zeit lassen」、m.194「Drängend」、m.196「Vorwärts」。脚注は「3連音の音型はいつも同じ速さで、休符のほうを広めに」。 → 聴取:同じ3連音の流れが、今度は激しくなる。いったん静まって歌ったあと、また押し出される。B との差:強弱が ff/fff まで上がり、金管が加わる。 |
| 区分 | 位置 | 調 | 主題 | 内容・聴取ポイント |
|---|---|---|---|---|
| ピッツィカートの主題 | mm.210–244練習番号12=210/13=235 | As dur | A | m.210 で調号が♭4に戻り、m.213「Wieder in's Tempo zurückgehen」。m.216 前後から弦がピッツィカートで主題を弾き、ピッコロ・フルート・ハープが「nicht brechen(分散させずに)」の和音で合わせる。 → 聴取:弓を使わない、はじけるような主題。同じ旋律がまったく別の手触りで戻る。 |
| 歌い納め | mm.245–299練習番号14=261/15=285 | As dur | A | m.245「Breit」で第1ヴァイオリンが「sehr gesangvoll, molto espress.」、m.254「fließend」、m.261「wieder gehalten」、m.267 でヴァイオリンに「grossen Ton und Wärme(大きな音と温かさで)」。m.280「Immer mehr und mehr zurückhaltend (morendo)」、m.289「morendo bis zum Schluss」。最後はピッツィカートの和音。 → 聴取:弓に戻った主題が、いちばん大きく温かく歌われる。そこから最後まで減衰していく。 |
形式上の特異点
- A が戻るたびに書法が変わる。1回目は弦の素直な主題、2回目(A′)は弱音器の主題とチェロの対旋律、3回目(A″)はピッツィカートで始まり弓の大きな歌で終わる。旋律は同じで、変わるのは奏法と主役。
- 中間部が2度とも同じ調(嬰ト短調)に置かれる。嬰ト短調は変イ短調を♯で書き換えたもの(異名同音)で、主調の同主短調にあたる。調号は♭4から♯5へ大きく変わって見えるが、主音は同じ高さのまま長調が短調に翳る。
- 拍子が一度も変わらない。3/8 のまま299小節。テンポ語だけで緩急を付けている。独唱・合唱・オルガン・鐘・タムタム・舞台裏の楽器はこの楽章に出ない(本ガイドの版面確認)。
- 弱起を数えない。練習番号1は弱起の上に刷られ、m.1 はその次の小節。
第3楽章 In ruhig fließender Bewegung
スケルツォ(トリオ2つ+破局。本ガイドの読み)
スケルツォ
1–102
1–102
トリオⅠ
103–148
103–148
スケルツォ
149–189
149–189
トリオⅡ
190–347
190–347
スケルツォ
348–440
348–440
破局
441–480
441–480
解体
481–544
481–544
終結
545–581
545–581
※ 幅は小節数に比例。区分は本ガイドの読み。調号は ♭3 → m.103 ♭1 → m.149 ♭3 → m.190 なし → m.212 ♯2 → m.257 ♯4 → m.328 なし → m.348 ♭3 → m.407 ♭1 → m.441 なし → m.545 ♭3。
主要主題
ティンパニの合図 m.1
第1ティンパニが独奏で「ff kurz」、「Jeden Ton gleich abdämpfen(一打ごとにすぐ止める)」。m.3 と m.5 の休符にフェルマータ(脚注「Kurze Halte!(短い止まり)」)。m.6 から第2ティンパニが8分音符の刻みを始める。
流れる主題 m.14
第1ヴァイオリンが「Sehr gemächlich」で16分音符の途切れない流れを始める。下はピッツィカートとルーテ(木を叩く枝ばち)。Wikipedia 英語版によれば、同時期に書かれた歌曲《魚に説教するパドヴァの聖アントニウス》(『子供の魔法の角笛』による)の器楽化で、歌の声部はない。
トランペットの歌 m.272
「Sehr getragen und gesangvoll」。第1トランペットが朝顔を上に向け(m.271 の指示)、「sehr ausdrucksvoll gesungen(ごく表情豊かに歌って)」、ハープのアルペッジョの上で長い旋律を吹く。m.308 で「Portamento」を付けてもう一度。ホ長調(調号♯4)。
| 区分 | 位置 | 調 | 主題 | 内容・聴取ポイント |
|---|---|---|---|---|
| スケルツォ | mm.1–102練習番号28=1/29=31/30=57/31=85 | c moll | A | ティンパニの独奏と刻み、m.14 から弦の流れ。m.52 で小クラリネット(Es管)が「mit Humor」で独奏、m.54 から弦のコル・レーニョ。m.98 で全合奏 ff、m.99 で低いタムタム。 → 聴取:小クラリネットの甲高い「ユーモア」。流れは穏やかでも、合いの手がどこか皮肉っぽい。 |
| トリオⅠ | mm.103–148練習番号32=103/33=120 | 調号♭1 | B | 複縦線で調号が♭1に。ハープ2台がここで初めて入り、ファゴットが「deutlich」。m.113 からオーボエ独奏とホルン、m.137 でフルートとオーボエが「zart hervortretend」。m.147 で全合奏 ff。 → 聴取:ハープが入って響きが明るく柔らかくなる。木管の独奏が順に歌う。 |
| スケルツォ | mm.149–189練習番号34=149/35=177 | c moll | A | 冒頭の素材が戻り、ルーテの16分音符と第1ヴァイオリンの流れ。m.169 からヴァイオリン半数が pppp。m.186 から弱音器、m.188 でホルンとトランペットが「gestopft」、m.189 で ff。 → 聴取:流れが戻るが、今度は弱音と弱音器で細く遠い。 |
| 区分 | 位置 | 調 | 主題 | 内容・聴取ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 明るい全奏 | mm.190–271練習番号36=190/37=212/38=235/39=257 | C dur→D dur→E dur | C | m.190 でハ長調、ピッコロとフルートが高い音を「p sempre」で保つ。m.211 の弱起でホルン・トランペットが ff、m.212「Vorwärts」でニ長調の全奏。m.239 で独奏ヴァイオリン。m.257 でホ長調の全奏 ff。 → 聴取:調が一段ずつ全音上がる(ハ→ニ→ホ)。そのたびに全奏が明るくなる。 |
| トランペットの歌 | mm.272–317練習番号40=272/41=288/42=308 | E dur | C | 第1トランペットの長い独奏、ハープ2台、トライアングル。m.287 で木管が朝顔を上げて「espress. hervortretend」、m.304 でホルン6本「weich」。m.308 でトランペットとヴァイオリンが「sehr gesangvoll」、ヴァイオリンはグリッサンド。 → 聴取:この楽章でいちばん素直な歌が、トランペットに託される。 |
| 移行 | mm.318–347練習番号43=328 | E dur→調号なし | m.321 前後「Etwas zurückhaltend」、弦が順に「Hälfte」ppp。m.328「Zum Tempo I. zurückkehren」で調号が消える。m.346 でヴァイオリンが「glissando mit einem Finger」、m.347 で全奏 fff。 → 聴取:m.347 の一瞬の fffが、次のスケルツォへの扉になる。 |
| 区分 | 位置 | 調 | 主題 | 内容・聴取ポイント |
|---|---|---|---|---|
| スケルツォ | mm.348–440練習番号44=348/45=368/46=384/47=407/48=417 | c moll→調号♭1 | A | 「Tempo I.」。弦のコル・レーニョ、ピッツィカート。m.395 で小クラリネットが再び「mit Humor」。m.403 で低いタムタム。m.407 で調号♭1、ファゴット独奏「deutlich」、m.417 でオーボエ。 → 聴取:冒頭の流れが戻り、トリオⅠの響きも混ざってくる。 |
| 破局 | mm.441–480練習番号49=441/50=457 | 調号なし | 全合奏 ff、2種のタムタム、木槌のティンパニ。m.449「Unmerklich drängend」。m.464 で全員が6連音で駆け上がり、m.465 で fff の和音。ハープは「Alle Harfen vereinigt(全ハープ一緒に)」で fff のグリッサンド、低いタムタム ff、弦 fff のトレモロ。m.469 で2/4、m.473 で3/8 に戻り、m.474「Wieder unmerklich zurückhaltend」。 → 聴取:m.465 の叫び。一般に「絶望の叫び」と呼ばれる箇所で、穏やかな流れの楽章がここで一度壊れる。 |
|
| 解体 | mm.481–544練習番号51=481/52=500頃/53=521 | — | ホルン「gestopft」pp、ヴァイオリン ppp、シンバルは海綿ばちで「klingen lassen」。m.501「Zeit lassen」、ヴァイオリンが「lang gestrichen」。m.516「morendo」、m.519 でハープ ff のグリッサンド。m.529「Allmählich zum Tempo I. zurückkehren」。m.544 で木管の下降音型とハープの下行グリッサンド fff。 → 聴取:叫びのあと、音楽がばらばらになってから少しずつ元の流れを取り戻す。 |
|
| 終結 | mm.545–581練習番号54=545/55=560 | c moll | A | 「Tempo I」で調号が♭3。ルーテ、弦のピッツィカートと跳ねる弓。m.573 で ff の一振りのあと急速に弱まり、m.581 は全員のフェルマータ:コントラファゴット sf–pp、低いタムタム mf、ハープ ff(1オクターヴ下)。 → 聴取:最後の低い一撃が、そのまま第4楽章のアルトの第一声へつながる。 |
形式上の特異点
- 歌曲の器楽版。Wikipedia 英語版によれば、同時期の歌曲《魚に説教するパドヴァの聖アントニウス》を下敷きにしている。聖人の説教を聞いた魚たちが何も変わらずに去っていく歌で、流れ続ける16分音符と皮肉っぽい小クラリネットがその性格を引き継いでいる、と本ガイドは読む。
- トリオⅡで調が全音ずつ上がる。ハ長調(m.190)→ニ長調(m.212)→ホ長調(m.257)。
- 終盤の破局(m.465)。スケルツォの枠の中に、ソナタでも舞曲でもない崩壊の場面が入る。拍子が一瞬 2/4 に変わる(m.469–472)のもここだけ。
- 切れ目なく第4楽章へ。楽章末に「Folgt ohne jede Unterbrechung der 4. Satz.」。最後の小節は全員のフェルマータで、ハープは「8va tiefer(1オクターヴ下)」の ff。
第4楽章 „Urlicht“(原光)
通作の歌曲(アルト独唱)
呼びかけとコラール
1–14
1–14
人の苦しみ
15–35
15–35
広い道
36–43
36–43
天使
44–54
44–54
神のもとへ
55–68
55–68
※ 幅は小節数に比例。調号は ♭5 → m.44 ♯3 → m.55 ♭5。総小節数68は本ガイドの計数(楽章末に番号は刷られていない。最終頁の段頭が58で、そこから11小節)。
主要主題
アルトの呼びかけ m.1
「Altstimme (durchaus zart)(終始やさしく)」。アルトが p で「O Röschen roth!(おお、赤い小さなばら)」と歌い、m.2–3 はフェルマータで伸ばす。弦は弱音器つき ppp の和音で支えるだけ。
金管のコラール m.4
「Sehr feierlich, aber schlicht (Choralmässig)(ごく荘重に、しかし素朴に。コラール風に)」「Nicht schleppen」。ホルン・トランペット・ファゴットが pp で、2分音符主体の和音の進行を吹く。版面の注は、これらの楽器を「並べて、できれば舞台の奥に」置くよう求める。
天使の場面 m.44
調号がイ長調(♯3)に変わり、ピッコロとフルート、ハープ、弦の細かい動きが明るく揺れる。アルトが「da kam ein Engelein und wollt' mich abweisen(天使が来て私を追い返そうとした)」。独奏ヴァイオリン2本も弱音器なしで加わる。
| 区分 | 位置 | 調 | 歌詞(冒頭) | 内容・聴取ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 呼びかけとコラール | mm.1–14 | Des dur | O Röschen roth! | アルトの一声(mm.1–3)のあと、m.4 から金管のコラール。弦は休む。 → 聴取:第3楽章の最後の低い一撃から、いきなり静かな人の声になる。続く金管は遠くの教会の響きのよう。 |
| 人の苦しみ | mm.15–35練習番号1=15/2=27 | Des dur | Der Mensch liegt in grösster Noth! | 弦が pp で入り、アルトが「人はこのうえない苦しみの中にある」と2度歌う。m.23 前後から「Je lieber möcht' ich im Himmel sein!(いっそ天にいたい)」。m.29 以降「rit.」「molto espress.」でオーボエが歌い、拍子が5/4・6/4 に伸びる。m.32–35 で弦が「pppp」「ersterbend(消え入って)」。 → 聴取:拍子が伸び縮みして、言葉の重さに合わせて音楽が息をする。 |
| 広い道 | mm.36–43練習番号3 | 調号♭5のまま | Da kam ich auf einen breiten Weg | 「Etwas bewegter」。オーボエ、クラリネット「p deutlich」、グロッケンシュピール(「すべて1オクターヴ上で鳴る」の注)、ハープ。m.39 で独奏ヴァイオリンが弱音器を外して「p espress.」。 → 聴取:グロッケンシュピールの小さな光と、独奏ヴァイオリン。少し歩き出す。 |
| 天使 | mm.44–54練習番号4 | A dur | da kam ein Engelein | イ長調に移る。m.48「Ritenuto」、m.50「a tempo」で「Leidenschaftlich aber zart(情熱的に、しかしやさしく)」、アルトが「Ach nein! Ich liess mich nicht abweisen!(いいえ、私は追い返されはしなかった)」。 → 聴取:変ニ長調から長3度下のイ長調へ、響きがふっと変わる。ここだけ「情熱的に」という指示が出る。 |
| 神のもとへ | mm.55–68練習番号5=55/6=60 | Des dur | Ich bin von Gott und will wieder zu Gott! | 調号が♭5に戻り、アルトが「zart drängend」で「私は神から来て、神のもとへ帰りたい」。m.59「Molto riten.」、m.60「Wieder langsam, wie zum Anfang」で「永遠の至福の生まで照らしてくれる」。最後は弦とハープが「gänzlich ersterbend」、フェルマータ。 → 聴取:「Leben!(生)」の語で歌が終わり、弦だけが消えていく。その余韻のまま第5楽章の叫びが来る。 |
形式上の特異点
- 交響曲に歌曲がそのまま入る。見出しに「aus „des Knaben Wunderhorn“」と刷られている。この交響曲で人の声が出るのはここが最初で、器楽の3楽章のあとに来る。
- 拍子が小節ごとに変わる。4/4 を基調に 3/4・2/4・5/4・6/4 が頻繁に入れ替わる(版面で確認)。詩の言葉の長さに拍子を合わせた書き方、と本ガイドは読む。
- 両端が同じ調、中間がイ長調。変ニ長調(♭5)とイ長調(♯3)は長3度の関係で、第1楽章の第2主題がハ短調に対してホ長調(長3度上)だったのと同じ距離にある。これは本ガイドの読みで、典拠はない。
- 前後とも切れ目なし。冒頭に「attacca」、終わりに「folgt ohne jede Unterbrechung der 5 Satz」。
第5楽章 Im Tempo des Scherzo
二部構成(器楽の前半+独唱・合唱の後半)
叫び
1–42
1–42
遠いホルン
43–96
43–96
高まり
97–193
97–193
行進
194–417
194–417
大いなる呼び声
418–471
418–471
合唱
472–559
472–559
独唱
560–671
560–671
終結
672–764
672–764
※ 幅は小節数に比例(拍子が何度も変わるので演奏時間の比ではない)。区分名は本ガイドの読み。調号は ♭4 → m.26 なし → m.43 ♭4 → m.97 ♭5 → m.162 なし → m.194 ♭4 → m.220 ♭1 → m.289 ♭4 → m.418 ♭5 → m.448 なし → m.472 ♭6 → m.560 ♭5 → m.640 ♭4 → m.672 ♭3(終わりまで)。
主要主題
叫び m.1–3
「Wild herausfahrend(荒々しく飛び出して)」。チェロとコントラバスが fff で駆け上がり、m.3 で全管楽器が fff の和音、ホルンとトランペットは朝顔を上に向け、ティンパニは木のばち、ハープは fff の走句。3/8。
遠いホルンの呼び声 m.43
舞台裏のホルン。譜表の注は「できるだけ多数で、非常に強く吹き、遠く離して置く」。弱起の C から上行する呼び声で、m.44・m.47 のフェルマータに「lange (Echo.)」「verklingend」。オーケストラは休み、m.47 の終わりから第1オーボエが3連音で応える。
「Aufersteh'n」の合唱 m.472
「Langsam. Misterioso.」。混声合唱が無伴奏(a cappella)pppで、ソプラノ独唱が「ohne im Geringsten hervorzutreten(少しも目立たずに)」合唱に混ざる。2分音符主体のゆっくりした和音の歌で、変ト長調(♭6)。脚注は、合唱のバスの低音を1オクターヴ上げてはならないと念を押す。
終結の全合唱 m.712
「Pesante」。合唱に「Mit höchster Kraft(最高の力で)」、独唱2人も合唱と一緒に歌い、オルガンが「volles Werk(全ストップ)」ff、トランペットは「最後まで補強して」朝顔を上へ。変ホ長調で「Aufersteh'n, ja aufersteh'n wirst du, mein Herz, in einem Nu!(よみがえる、わが心よ、一瞬のうちに)」。
| 区分 | 位置 | 調 | 主題 | 内容・聴取ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 叫び | mm.1–25練習番号1=10 | 調号♭4 | 叫び | m.6–9 は2/4、m.10「Vorwärts」で3/8。m.18「Wieder breiter」で全合奏 fff。m.25 の終わりに「Cäsur」。 → 聴取:第4楽章が消え入った直後の一撃。表題「Im Tempo des Scherzo(スケルツォのテンポで)」どおり、冒頭は第3楽章と同じ3/8 で書かれている。 |
| 静まり | mm.26–42練習番号2 | 調号なし | 「Sehr zurückhaltend」、4/4。ヴァイオリン3部 ppp、ホルン「sempre pp」、低いタムタム、m.28 グロッケンシュピール、m.29 クラリネットの「Echo」。m.40「Fliessend」「Nicht dehnen」で「sich verlierend(消えていく)」。 → 聴取:叫びのあと、急に広い空間に出る。ホルンとこだまの応答で、遠近感が作られる。 |
|
| 遠いホルン | mm.43–96練習番号3=43/4=59/5=70/6=78 | 調号♭4 | 呼び声 | m.43「Langsam」で舞台裏のホルン。m.48 オーボエの3連音、m.55「Nicht schleppen」でフルートと弦のトリルが「切れ目のないトリルの鎖」(脚注)。m.62「Langsam (Quasi l'istesso Tempo)」で木管が ppp のコラール風の旋律、m.69 トロンボーン「p bestimmt」、m.73 トランペット独奏。m.78「Nicht eilen. Immer dasselbe getragene Zeitmass.」で再び舞台裏のホルン、m.84–93 で舞台裏のトランペットも。 → 聴取:舞台の外から聞こえるホルン。この遠さの感覚が、あとの「大いなる呼び声」で何倍にもなって戻る。 |
| 高まり | mm.97–193練習番号7=97/8=115/9=131/10=142/11=162/12=173/13=183 | 調号♭5→調号なし | m.97 で¢、「Im Anfang sehr zurückgehalten」。m.122「Sehr drängend」、m.131「Ziemlich bewegt」。m.142 は全休止(G.P.)。m.143「Wieder sehr breit」でコントラファゴット・トロンボーン・テューバが pp のコラール。m.161 の脚注は、金管のクレッシェンドを「非常に力強く」、最大の力に達するまでテンポを抑えよ、弦と木管が入ったら金管は引け、と書く。m.162「Wieder breit」でハ長調 fff。m.183 からタムタムで沈み、m.192–193 で大太鼓・小太鼓・タムタム・ティンパニが pp から「非常にゆっくり着実に最高の力まで」膨らむ(脚注)。 → 聴取:m.192–193 の打楽器だけのクレッシェンド。ここから行進が始まる。 |
|
| 行進 | mm.194–417練習番号14=194/16=238/17=263/19=297/20=310/21=325/22=343/25=380/26=395 | 調号♭4→♭1→♭4 | 行進 | m.194「Maestoso」、m.196「Allegro energico / Nicht zu schnell」、m.197 前後「Sehr scharf rhythmisiert」。ホルンはここから10本。m.220「Kräftig」で弦が G 線のマルテラート。m.248 で「3本の鋼の棒または深く音程の定まらない鐘」が初めて鳴る。m.252 でホルン7–10番が舞台裏へ移る。m.289「Mit einem Male etwas wuchtiger / Pesante」、m.309「Molto rit.」と「Cäsur」、m.310「Più mosso」で fff とタムタム。m.325「Wieder zurückhaltend」で第1トロンボーンの独奏、m.341 からチェロの語りかけるような旋律。m.343 で舞台裏の楽隊(トランペット、トライアングル、シンバルと大太鼓)が「In weitester Ferne aufgestellt(いちばん遠くに置いて)」、独自の拍子で入る。m.376「Heftig drängend」で舞台裏は「ずっと強く聞こえるように」。m.380「Halbe taktieren」で全奏、m.402「Più mosso」fff、m.405「molto accelerando」、m.415「Poco rit.」。 → 聴取:チェロの歌の背後で、遠くの楽隊がかすかに鳴る(m.343–)。脚注は、風に運ばれて切れ切れに届く「ほとんど聞き取れない音楽」だと書く。 |
| 大いなる呼び声 | mm.418–471練習番号27=418/28=434/29=448/30=455 | 調号♭5→調号なし | 呼び声 | m.418「Langsam」2/2、pp。トランペット3–6番と第1ティンパニが舞台裏へ移る。m.448「Sehr langsam und gedehnt」4/4:舞台裏のホルンとトランペットが左右の反対側から(注「4本のトランペットは反対方向から響かねばならない」)、オーケストラは第1フルートと大太鼓のロールだけ。m.454「Più mosso」でフルートが ppp「wie eine Vogelstimme(鳥の声のように)」、m.455「Quasi Allegro」で舞台裏のトランペットが「schnell und schmetternd」。m.460 からフルートとピッコロの鳥の声、舞台裏は「immer fern und ferner(ますます遠く)」、m.471 のフェルマータで途切れる。 → 聴取:ほとんど何もない舞台上の鳥の声と、左右の遠くから交互に届く金管。一般に「大いなる呼び声(Der große Appell)」と呼ばれる場面。 |
| 区分 | 位置 | 調 | 歌詞(冒頭) | 内容・聴取ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 合唱(クロプシュトック第1節) | mm.472–511練習番号31=472/32=484/33=493/34=502 | Ges dur | Aufersteh'n, ja aufersteh'n wirst du, mein Staub, nach kurzer Ruh! | 無伴奏の ppp(よみがえる、わが塵よ、短い憩いののちに)。m.479 から弦が弱音器つきで支える(注:合唱の音程が下がらないようにするためだけに弾く)。m.487 でソプラノ独唱が「Sehr zart」。m.493「Sehr breit」でホルンの3連音と全ハープ、m.497 でホルン6本が朝顔を上げて主題を吹く。m.502 で弦が「lang gezogen (viel Bogen)」。 → 聴取:大編成の管弦楽が黙り、人の声だけが ppp で始まる。舞台裏の奏者は、この無伴奏の歌を物音で乱さないように席へ戻れ、と版面に書かれている。 |
| 合唱(第2節) | mm.512–559練習番号35=512/36=526/37=536/38=550 | Ges dur | Wieder aufzublüh'n wirst du gesät! | 「Langsam ppp. Nicht schleppen.」。まず男声(再び花咲くために、おまえは蒔かれる)、m.517 で女声とソプラノ独唱。拍子が 2/4・3/4・4/4 と小節ごとに変わる。m.526「Der Herr der Ernte」、m.536「a tempo」でホルンとヴァイオリンが「sehr ausdrucksvoll」。m.550「Nicht schleppend」でヴァイオリンが4部 pppp、m.558 は「5プルトで1音ずつ」ppppp。 → 聴取:ここまでがクロプシュトックの詩。合唱のあとの器楽の歌で、次のマーラー自身の詩へ渡される。 |
| アルト独唱 | mm.560–601練習番号39=560/40=582 | 調号♭5 | O glaube, mein Herz, o glaube | 「Etwas bewegter (aber nicht eilen)」「Halbe taktiren」。m.561 の弱起からアルト独唱が「schlicht(素朴に)」、イングリッシュホルンが「molto espr.」で絡む。ここからマーラー自身の詩(信じよ、わが心よ)。m.576「Etwas drängend」、m.582 で「mit Ausdruck」、トランペット「molto portamento」。m.587「Noch mehr drängend」、m.590「accel.」、ヴィオラ「mit leidenschaftlichem Ausdruck」。 → 聴取:合唱のあとに、一人の声が語りかけてくる。 |
| ソプラノ独唱と合唱 | mm.602–639練習番号41=602/42=618/43=629 | 調号♭5 | O glaube: Du wardst nicht umsonst geboren! | 「Nicht schleppen / Wieder (unmerklich) bewegter」。ソプラノ独唱が「Innig」。m.618「Langsamer / Misterioso」で合唱「Was entstanden ist, das muss vergehen!」、m.623「Vorwärts」で女声「auferstehen!」。m.629 で男声「Hör' auf zu beben!(震えるのをやめよ)」、m.631 でアルト独唱、m.634「Schneller」で男声 ff「Bereite」、m.635「Langsamer」でアルト「Bereite dich zu leben!(生きる支度をせよ)」。 → 聴取:独唱と合唱の短い受け答え。テンポが一言ごとに変わる。 |
| 二重唱 | mm.640–671練習番号44=640/45=656 | As dur | O Schmerz! Du Alldurchdringer! | 「Mit Aufschwung, aber nicht eilen」、2/2、調号♭4。弦 ff、全ハープ ff。アルト「おお痛みよ、すべてを貫くものよ」、m.648 前後でソプラノ「O Tod! Du Allbezwinger!」、2人が重なる。m.655 でソプラノ「p espr.」「Mit Flügeln, die ich mir errungen(自ら勝ち取った翼で)」、m.664「Drängend」、m.668「Nicht schleppen」。 → 聴取:2人の独唱が初めて並び、弦が大きく持ち上げる。 |
| 「翼」の合唱 | mm.672–711練習番号46=672/47=696 | Es dur | Mit Flügeln, die ich mir errungen | 「Langsam」2/2、調号♭3。合唱のバスから「Sehr zart ppp」で入り、声部が1つずつ加わる。m.676「Halbe taktieren(ただしまだ速めない)」、m.685「Langsam steigern」、m.688 で合唱7部。m.693「Wieder etwas zurückhaltend」、m.695 の終わりに息継ぎ。m.696「Più mosso」で全合唱 ff「Sterben werd' ich, um zu leben!(生きるために死ぬのだ)」。m.708「Ritenuto」。 → 聴取:低い声から順に重なっていく合唱。調号は m.672 から終わりまで♭3のままだが、m.680 前後から F♯・B♮ の臨時記号が増え、響きはト長調の側へ傾く(Wikipedia 英語版は「8小節後にト長調へ引き寄せられるが、そこで終止はしない」とする)。m.696 で低音が E♭ に戻り、変ホ長調がふたたび現れる。 |
| 終結 | mm.712–764練習番号48=712/49=726/50=740/51=752 | Es dur | Aufersteh'n, ja aufersteh'n wirst du, mein Herz | 「Pesante」4/4、オルガンが初めて入る。m.720「Etwas schneller」、m.726「Wieder zurückhaltend」で「zu Gott wird es dich tragen!(神のもとへ運ばれる)」。m.730「Molto rit.」、m.732 で歌が終わり、深い鐘・大太鼓・低いタムタムが鳴る。m.740「Più mosso」、m.744「Noch schneller」、m.752「Mit höchster Kraftentfaltung. Noch einmal so langsam.(全力で。倍の遅さで)」¢。最後の和音は「scharf abreissen(鋭く断ち切る)」。 → 聴取:声が終わってから、鐘とオルガンと管弦楽だけでさらに30小節あまり続く。 |
別の見立て:二部構成とソナタの原理で読むと
Wikipedia 英語版は、この楽章を二つの大きな部分に分け、第2部は合唱の入り(本ガイドの m.472)から始まって歌詞が形を決める、とする。第1部は器楽で、挿話的で気分・テンポ・調が多彩、前の楽章の素材を多く使いながら「ソナタの原理にゆるやかに従う」と書き、「死者の行進(march of the dead)」と「大いなる呼び声(Great Summons)」の呼び名を挙げる。ただし小節の位置は示していない。本ガイドの区分を当てはめると、叫び〜遠いホルン〜高まり(mm.1–193)が提示部に、行進(mm.194–417)が展開部にあたり、大いなる呼び声(mm.418–471)が合唱への橋渡しになる、という読みになる。この対応づけは本ガイドのもので、Wikipedia は小節で区切っていない。同じ記事は、展開部をマーラーの言う「死者の行進」とし、2つの長い太鼓のロールで始まるとする。再現部は行進と重なり、第1主題群は短く戻るだけで、ホルンの呼び声が「大いなる呼び声」へ広がって合唱への移行になる、とも書く。本ガイドは再現部の始まりを行進(mm.194–417)の中の小節として特定していないので、この点は本ガイドの区分と一致しないまま残る。Lawrence F. Bernstein の聴取ガイド(下の参考文献)は各楽章の形式を章立てで扱うが、本ガイドは本文を読めていない。
形式上の特異点
- 舞台裏の楽器が3つの局面で出る。数え方は、舞台裏の奏者がいったん席へ戻るまでを1局面とする。1つ目は m.43 と m.78 以降のホルン(遠い呼び声。m.93 で「オーケストラの席に着く」と指示される)、2つ目は m.343 の楽隊(トランペット・トライアングル・シンバルと大太鼓)で、脚注は「風に運ばれて切れ切れに届く、ほとんど聞き取れない音楽」とする。3つ目は m.448 以降で、左右反対側の金管と舞台上のフルートの鳥の声が組み合わされる(m.471 で再び席へ戻る指示)。
- 合唱が無伴奏の ppp で入る。764小節のうち、声が入るのは m.472 からで、最初の一声は大編成の管弦楽を黙らせた無伴奏。弦が加わるのは合唱の音程を支えるため、と版面の注にある。
- クロプシュトックの詩とマーラー自身の詩の継ぎ目。Wikipedia 英語版によれば、詩の最初の8行(本ガイドの区分では m.472–559 の2節)がクロプシュトックで、「O glaube」(m.561 のアルト)以降はマーラーの作。終結の「Aufersteh'n, ja aufersteh'n wirst du, mein Herz」も、冒頭の「mein Staub(わが塵)」が「mein Herz(わが心)」に変わっている。
- 調号が13回変わる。♭4 で始まり、途中でハ長調・変ト長調などを経て、m.672 で最後の調号♭3に入る。ただし調号が変わることと変ホ長調が確立することは別である。m.680 前後でト長調の側へ傾き、m.696「Sterben werd' ich」で変ホ長調に戻る。m.708–711 の B♭ の保続のあと、m.712(オルガンが初めて入る小節)で変ホ長調の主和音が全合奏で鳴って、ようやく確立する(本ガイドの版面読み。Wikipedia 英語版も、m.712 にあたる最後の詩節の頭を完全終止とする)。変ホ長調はハ短調の平行調で、全曲がハ短調から変ホ長調へ移って終わる。
- 鐘とオルガンは最後にだけ。「深く音程の定まらない鐘」は m.248 で初めて鳴り、終結で再び出る。オルガンは m.712 まで一度も鳴らない。
参考文献
- 楽譜(底本):Gustav Mahler, Symphonie Nr. 2, Sämtliche Werke, Kritische Gesamtausgabe Band II, hrsg. Internationale Gustav Mahler Gesellschaft (Erwin Ratz), Universal Edition, Revisionsbericht © 1970. 図版番号 U.E. 13821/U.E. 2933。IMSLP #211806(IMSLP-EU 所蔵)
- 楽譜(未照合):初版 Leipzig: Friedrich Hofmeister, 1897 の Universal Edition 復刻。IMSLP #415748
- Universal Edition, Mahler: Symphony No. 2(Kaplan/Stark-Voit 校訂 UE 33882 の商品ページ。universaledition.com)
- European American Music, “New Edition of Mahler’s Symphony No. 2 on Nashville Symphony’s Gala Opening Program”(出版社代理店の告知。eamdc.com)
- Paul Banks, “Mahler’s ‘Totenfeier’: a symphonic poem? A Postscript”(Mahler Catalogue。研究者が運営する作品目録サイト。原論考は Musical Times cxxix/1750, 1988)
- Hartmut Haenchen, 「Gustav Mahlers Spielanweisungen für Streicher」(haenchen.net。指揮者本人のサイトに掲載された質疑形式の解説。mit dem Bogen geschlagen の解釈)
- Oregon Mahler Festival, German glossary for Mahler Symphony No. 2(oregonmahlerfestival.org。演奏団体による用語集。sehr getragen の訳の確認)
- Lawrence F. Bernstein, Inside Mahler’s Second Symphony: A Listener’s Guide, Oxford University Press, 2022(未参照。各楽章の形式を論じる聴取ガイド。本ガイドは本文を読めていない)
- Wikipedia 英語版「Symphony No. 2 (Mahler)」(en.wikipedia.org。成立・初演・テキストの出所・休止の扱い)
- 参照録音:Otto Klemperer, Philharmonia Orchestra & Chorus, Elisabeth Schwarzkopf, Hilde Rössl-Majdan(EMI、1961–62年録音。録音日は Discogs の盤情報による)
第1版 | 初版 2026-09-27 | 最終改訂 2026-09-27